HAPPY BIRTHDAY
「え?!今日黒尾先輩誕生日なんですか?!」 「まじでなまえちゃん知らなかったの?!」
放課後になった直後の部活前。いつも通り用具を運ぼうと部室に向かうと、クラッカーを構えたバレー部一同(黒尾先輩以外)がいた。なんでも皆それぞれにプレゼントを持ち寄っていて、今日は監督の計らいもあり部活も休むらしい。
皆が、とっくに誰かが言ったと思ってた〜と口々に言うが、本当に知らなかった。でもそんなことより、最近付き合い始めたばかりの彼氏の誕生日を知らなかったじゃ済まない。
(やばい、どうしよう!)
「今、同じクラスのやつに頼んで黒尾引き止めてもらってんだよね」 「私今からプレゼント買ってきます!」 「いやいや間に合わないって!」
急いで身を翻した私を慌てた夜久さんが引き止める。
「どうしよう…」と落ち込む私に、猛虎先輩が何かを書き殴って封筒に入れ、声をかけてくれる。
「よし!じゃあこの手紙をクロさんに渡すといい!」 「これ、なんですか?」 「肩たたき券みたいなものだ!でもクロさんは絶対に喜ぶ!」
猛虎さんにすごい勢いで言われて、でももう時間もないし使わせていただこう。今日は謝って、ちゃんとしたプレゼントはまた今度買おうと決めた。
「あっ足音!来ますよ!」 「みんな、構えろ!」
リエーフくんと夜久さんの声に皆がまたクラッカーを構え、声をひそめる。すりガラスの向こうにすらっとした影が映り、ドアがギィっと開いた瞬間、
「「「誕生日おめでとう黒尾(さん)!!」」」
全員で叫んで、一斉にクラッカーを鳴らした。
飛び出たテープが落ちて彼を見ると、扉に手をかけたまま目を見開き、驚いた顔をしている黒尾先輩。
今度は口々におめでとう、おめでとうございますと声をかけ、やっと状況を把握したのか「はは、ありがとな」と言った。
「早速だが今日は練習休みだ」 「ささやかながら主将の誕生日パーティーをやるぞ!」 「マジデスカ」
海先輩と夜久さんが代表して今日の趣向を伝え、更に驚く彼。どこからか皆がお菓子やジュースを持ち出してくる。これは監督とコーチからの差し入れらしい。改めておめでとうを言いながら紙コップで乾杯し、わいわいとパーティーが始まった。
そして「そろそろプレゼントタイムにしましょ!」とリエーフくんが言い出し、皆がごそごそとラッピングされたものを取り出す。それぞれ綺麗に包まれたプレゼントを見て、また心でため息をついた。
「クロさんに点数つけてもらうのとかどうっすか!一番負けた人が勝った人にハーゲンダッツ!」 「いいっすね!」 「俺正直につけるけどいいのか」 「じゃないと勝負にならないですよ!むしろ厳しめにお願いします!」
余程自信があるのだろうか。猛虎さんがそんな提案をして、リエーフくんや犬岡くんもそれにのっていった。私勝ち目ないじゃん、と思いながら、盛り上がる空気になにも言えなかった。
「じゃあ俺から!ほい。」 「ドーモ」
夜久さんが渡した包みを先輩が開けて、「80点」と即座に言った。
「いきなりの高得点!中身なんすか!」 「新しいサポーター。ちょうどすり減ってたからありがたい」 「だろ!」 「さすがリベロの観察眼!」
「じゃ、次俺な。おめでとう」 「海先輩のそれ、本っぽいすね!」 「…50点」 「あれ?思ったより低いな?」 「お前のセンスはよくわからん」
本なんて海先輩らしいなと思うけど、意外と低くつけられた点数。その本の表紙を黒尾先輩の隣から覗き込むと、
【サンマの美味しい焼き方】
とデカデカと書いてあった。思わず笑ってしまった私に海先輩が首を傾げた。
「じゃあ次俺でいい?はい。」 「研磨からのプレゼントとは珍しい…おっ、76点」 「まあそんなもんだよね」 「中身なんなんですか?!」 「ゲームソフト。怖いやつ。俺あんまゲームはやんないけど、ホラー系はわりと好きなんだよなー。サンキュ」 「ん。」
研磨さんはさして賭けには興味なさそうだけど、やっぱり黒尾先輩の好みはよくわかってるんだなーと、少し羨ましくなった。
その後も次々と渡されるプレゼントに、黒尾先輩が明確に点数をつけていく。
福永さん 62点(お笑いDVD) 犬岡くん 58点(うまい棒各種味セット) 芝山くん 70点(スポーツタオル)
最初に言った通り、遠慮なくきっちり点数をつけていく黒尾先輩。でも皆もすごく楽しそうに笑いながらそれを見守っていて、和やかなムードで会は進んでいく。
私ももちろん楽しいけれど、自分のプレゼントのことを思うと少し憂鬱になる。ハーゲンダッツは決定的だろうかと思っていると、次に手を挙げたのはリエーフくんだった。
「俺のプレゼントはすごいですよー!黒尾さん絶対喜びますからね!」 「えらいハードルあげてんな」 「どうぞ!」
そうしてリエーフくんくんが取り出したのは、保冷バッグ。ファスナーを開けて黒尾先輩が除き組むと、即座に出た答え。
「2点。」 「えー?!!なんでですか?!」 「だから別に特別好きじゃねえっつってんだろ!」 「え、中身なに」
言い争いをしている二人の横から夜久さんがバッグを奪って皆の前で開ける。
「「「パニーニ」」」
そうして全員が吹き出して、しばらく部室は笑いに包まれた。
「じゃあ次は俺ですね!どうぞ!」
と、遂に賭けの言い出しっぺである猛虎さんが、自信満々に少し大きめの包みを渡した。皆にはまだ見えないように包装を破る彼。
「…98点。」 「ええー?!高っ!!」 「猛虎さんヤバいですね!」 「一体どんな代物を…!」
皆が今日一番の驚きを示した。中身は見えないけれど、猛虎さんすごいなあ、と私も驚いた。
「まだこれだけじゃないですよ!これはなまえちゃんのプレゼントとセットです!」
と、猛虎さんが満足気に言った。セットと言う言葉に心当たりはないけれど、もう私しか残っていない。とりあえずこの手紙?を渡して謝ろう。
「黒尾先輩。誕生日おめでとうございます。私、先輩の誕生日今日ってこと知らなくて…すみません。ちゃんとしたプレゼントはまた今度お渡しします。とりあえずこれ、どうぞ。」
そう言って、黒尾先輩に手紙を渡す。先輩は気にすんな、と優しい声で言って頭を撫でてくれたあと、手紙を開く。すると中身を開いたまま数秒固まり、次いで出たのは驚愕の点数だった。
「なまえ、100点。」 「…え?!ほんとですか?!」 「文句のつけようもございません。この券、使っていいんだろ?」
驚きの声を発している部員のみんなを横目に、黒尾先輩は不敵に笑って、その内容を私に見せる。
「猛虎さんのプレゼントをなまえが着用してにゃんにゃんします券…。え?!」
呆然とする私に、黒尾先輩が猛虎さんのプレゼントを皆に見せた。
「ぶっ!おま、猛虎!これ、【ネコ耳ミニスカメイドセット】って!!」 「絶対黒尾さんのツボだと思いました!」 「これはズリィだろー!!」
まさに阿鼻叫喚。ツッコむ人や笑い転げる人が皆口々に話す。
「と言うわけで、優勝は俺の彼女さんですね。リエーフ、ちゃんとこいつにハーゲンダッツ買ってこいよ」
黒尾先輩が心底楽しそうに言った。私は突然の展開に驚きつつ、手紙を凝視した。メイド服なんて恥ずかしい。黒尾先輩と二人きりならともかく、とりあえず今日ここで着るのは無理だ。
「あの、黒尾先輩。」 「ん?どうした?」 「…これ、着るのはここじゃ恥ずかしいですけど…あの、とりあえず今日はこれでいいですか?」 「はい?」 「……にゃんにゃん」
メイド服セットのパッケージに描いてある絵と同じポーズをとって、意を決して言った。 これで、いいんだよね?
「…っ。あーもう。馬鹿野郎」
と言って黒尾先輩が片手で口元を覆った。少しは喜んでもらえたのかなと思って、大好きな彼に、もう一度お誕生日おめでとうございますと声をかけた。
精一杯のおめでとうを君に
(ねえ俺の彼女可愛すぎるんですけど) (大丈夫だ。今のは俺らも可愛いと思った) (やらねぇかんな)
黒尾さんHAPPY BIRTHDAY!
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