黒尾さん




ことの起こりはつい昨日。放課後、せっかくの土曜日をどう過ごそうかと考えていると、ふいに友人である鉄朗が私の前に立ち、「明日、駅前に10時な」とだけ言って去っていった。



「…遅いなぁ、鉄朗」

(自分から10時って言った癖に…
って言うか何の用だろ)


普段から本心がわからない彼の真意を考えつつ待っていると、約束の20分後、彼がやっと姿を現した。


「ハヨ。さ、行こーぜ」

欠伸をしながらそう言って歩き出す彼。


遅刻した癖にお詫びもなしかよと心で毒づきながら、まあいつものことかと切り替える。



「行くって…どこに?」
「良いから付いて来いよ」


いつにも増して読めない彼の行動に疑問を持ちながらも、とりあえず着いていくと。

それから一日中、なんだかよくわからないまま、色々な場所に出掛けた。映画館だったり、買い物だったり…


(これじゃあ、なんかただのデートじゃん…)


夕方、人気のあまりない公園を考えながら歩いていると、私の少し前を歩いていた鉄朗がふと止まって声をかけてくる。


「楽しかったか?」
「え?」
「だから、今日楽しかったかって聞いてんだよ」
「まぁ、楽しかった、けど…?」

「じゃあこの前の奴は断っとけ」
「この前の奴?」


突然の問いと命令に、頭がこんがらがった。


「告白されてただろーが、先週くらい」
「あ、あれならもう断ったけど」
「…っそ。じゃあいいわ、帰るぞ。送る」


いつも通り言葉少なな彼だけど、今ばかりは初めて気持ちを感じとれた様な気がした。

夕焼けのせいなのかはわからないけど、後ろから見える鉄朗の顔がほんのり紅く見える。
私は、ずっと片思いだと思っていた恋に終止符を打つことが出来るのかも知れないと思った。


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