Catch you, Catch me




「なまえちゃん、もう帰るの?」
「んー…帰らないけど、ちょっと、ね。」


HR終了後、いつもならのんびりと帰宅の用意をする想い人が、珍しくテキパキと帰り支度をしている。


「じゃね、及川」
「あー、うん」


ぱたぱたと教室を後にする彼女。せっかくの月曜日なので、どこか寄り道でも誘おうと思ってたんだけど、拍子抜けだ。



「ありゃ、告白だな」
「うわあ!急に背後に立たないでよマッキー!」


なんとなく気配を消すのが上手い友人の出現に驚くが、それよりも今放たれた台詞が気になった。


「ねえ、今告白って言った?」
「うん。昼休み、なんか手紙渡されてたもん。呼び出しじゃね?」



心臓がドクンと鳴った。マッキーは俺の気持ちを知ってか知らずか、淡々と話を続ける。


「みょうじモテるねー」
「…ソウダネ」
「でも大丈夫かね。昼休み来てたの、あんま評判よくない奴だったけど」


その淡々と吐かれた台詞に、俺はいてもたっても居られなくなった。早足で教室を出ようとしたとき、後ろからがんばれよ、と友人の声が聞こえた気がした。




行き先もわからず彼女を探す。告白となれば、人気のないところだろう。裏庭や空き教室を回って、見つからないまま焦りがつのる。

彼女をとられたくないという気持ちと、何かあったらどうしようという強い気持ちが押し寄せてくる。



最後の希望を持って体育館裏へと走ると、



(ーいた、)



なまえちゃんの姿を見つけた安堵感よりも先に、彼女の両肩を掴んでいる男へと意識が向いた。




「ちょっと、何してんの」
「…及川?!」


こちらを振り返って驚く彼女。目が、潤んでいる。


「手、離せよ」


すぐに二人に近付き、彼女の体を奪い返して抱き込んだ。


「何泣かせてんの」
「は?お前に関係ねーだろ」
「関係なくても、好きな子泣かすなんて最低だよね。とりあえずなまえちゃんに悪影響だからさ、帰ってくんない」



まだこちらを睨んでいる男を睨み返した。喧嘩になろうと体格差で不利だと思ったのか、やってらんねーよ、と言って男が踵を返す。


姿が見えなくなったところで、まだ小刻みに震えている彼女の背中を撫でて、なんとか落ち着かせた。



「ごめん…ありがとう」
「うん。でももうちょっとさ、警戒心持った方がいいよ。男なんて単純なんだから、簡単に二人きりなんてなっちゃダメだよ」
「そう、だね。皆が及川みたいに優しいわけじゃないんだよね」
「むしろ俺以外は野獣だからね」


冗談めかしてそう言って、やっと落ち着いた彼女を腕の中から離す。俺の顔を見てにこりと笑ってくれる彼女に、守れてよかったと心から思った。



「まさか及川が助けに来てくれるなんて思わなかったよ。持つべきものは友達だね。」


けれど、ふと言った彼女の台詞が、心に引っかかる。確かに俺たちは友達なんだけど。


「…なまえちゃんにとって、俺ってなんなのかな」
「…友達じゃ、ないの?」


今言うべきなのかはわからない。けど、今までずっと言えなかった気持ちが、遂に我慢できなくなった。


「悪いけどさ、」
「え?」
「友達じゃ、足りない」


彼女の動きがぴたっと止まる。そしてその続きを促すように、俺の目を見つめてきた。


「知ってる?俺さ、超嫉妬深いの。今日も、なまえちゃんが告白されるんだって思ったらじっとしてられなかったんだよ。」
「及川、」
「好きだよ、なまえちゃん」


今まで何度も言おうと思って言えなかった言葉が、今日はあっさりと出た。いざとなったら意外と余裕がある自分が少し可笑しくて。


「もう今日みたいなことが起きないようにさ、俺に守られてて欲しいんだけど。どうかな?」


なまえちゃんの肩に手を乗せたまま、俯いた彼女を見つめる。



「…なる。」
「え?」
「及川の彼女に、なる」


ぼそっと言った言葉だけど、それは確かに俺の耳に届いていて。


「ほんとに?いいの?」
「守ってほしいだけじゃないよ。私だって、及川の周りにいる女の子たちに、いつも嫉妬してたんだよ」



私の方が嫉妬深いんだから、と涙目で笑って言ってくれた。


しばらく余韻に浸ってから、手を繋いで校舎へと向かう。ふと教室を見上げると、恐らく全て知っていたであろうあのチームメイトがこちらを見ていた。


感謝の気持ちも込めて、繋いだ手を掲げて見せた。







やっと、捕まえたよ

(マッキーいつから知ってたの?)
(むしろバレバレすぎて皆知ってるぞ)
(うっそ)


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