大人な彼と縮む距離




「烏養さん、昨日の分ここに置いときますね」
「おお、悪ィなみょうじ」


と、漫画雑誌を見たまま返事を返される。

バレー部のマネージャーをしている私は、練習の日報だったり、練習試合のスコアを家で纏めて、翌日の学校帰りに烏養さんの家まで届けるのが日課。

必然的に練習時間以外でも二人で顔をあわせる機会が多くなり、彼のさり気ない優しさに惹かれ始めたのは自然なことだった。



「烏養さん、あの…」
「ん?どした?」


顔を見たくて声をかけると、やっと顔をあげてこちらを見てくれる。視線があった瞬間、思わず好きですと声に出てしまいそうになった。


「…っ、」
「みょうじ?」

「っいや、えーと…あ!テーピングが切れかけてるんですけど、どこで買ったらいいかなって…」

「あー…じゃあ明日一緒に見に行くか?」
「え!いいんですか?」


明日は体育館の点検で練習が休みの日曜日。思いがけない誘いに飛びつく。


「あぁ。じゃ、駅前に1時な」
「っはい!」


心で歓喜に叫ぶのを止められないまま、にやけ顔で帰宅した。


(デート!烏養さんとデート!)


夜はいつもより念入りに肌のお手入れをしたり、服を選んだりでよく眠られなかった。





ーーー

「おう、早いな」
「こんにちは!」

約束時間の5分前、烏養さんが現れる。挨拶もそこそこに二人で歩き出した。


「……。」
「…ンだよ。じろじろ見て。」
「いや、ジャージじゃないんですね」


初めて見る彼の私服。いつもジャージしか見てないから、とても新鮮に感じる。全体的に黒で纏められたシンプルな服装に、あぁやっぱり大人なんだなと思った。


「俺のことなんだと思ってんだ」


とクスリと笑う彼。肩が触れそうな距離で歩くなんて、緊張してしまう。ふわりと香る煙草の匂いまでが、私の胸をきゅっとしめた。


それから大きなスポーツ用品店に行き、必要なものを買った。それでこの楽しい時間も終わってしまうのかなと思っていたが、思いがけずその後も一緒に街をぶらついたり、お茶をしに行ったりと時間を過ごす。


「烏養さん、今日は他に予定とかなかったんですか?」
「先約あんのに予定入れるかよ」


夕方の帰り道、人気の少ない歩道をまた二人で歩く。部活の所用だからとしても、一緒にいる時間をあけてくれたことが嬉しい。


「なぁみょうじ。お前好きなやつとかいねぇの?」
「へ?!…なんで、ですか?」


突然彼から吐き出された言葉。少しでも気にしてくれてるんだろうかと期待に頭を擡げるが、


「…澤村でも菅原でも、周りいいやつばっかじゃねぇか。別に部内恋愛禁止じゃねぇだろ」


…あぁ、そんな台詞聞きたくない。一瞬でも期待した私のバカ、と、楽しかった気分が一気に暗くなった。でももう歯止めがきかない。



「なんで、大地たちを勧めるんですか。」
「なんでって…」

「…私が好きなのは、もっと年上で、ぶっきらぼうだけど優しくて、今日私といる間は煙草を一回も吸わないようにしてくれてた、そんな人です」

「え…」
「困らせてごめんなさい。今日はありがとうございました」

「、おい!みょうじ!」


もう自分で自分をコントロールできない。溢れ出てくる涙を堪えて、走り出す。


(こんなふうに告白するつもり、なかったのに)



「待てって、…っなまえ!」


ぐいっと腕を掴まれて引き寄せられ、彼の胸の中に閉じ込められた。


「悪かった、ごめん」
「っやだ、離して、ください…っ」
「謝るから…嫌なんて言うなよ」


頭の上から烏養さんの切なそうな声が聞こえて、思わず抜け出せなくなる。


「探るような言い方して悪かった。…あいつらじゃなく、俺を選べ」
「え…」
「お前が好きだ」


突然降り注いできたその言葉に、思考が働かない。震える声を絞り出した。


「…いいんですか。私、烏養さんに比べたら、子どもですよ」
「あぁ、構わねぇ。むしろ、」



そうして烏養さんが言ってくれた言葉に、これから始まる甘い生活を想った。






教えてやるよ、オトナの恋愛

(烏養さんのえっち)
(…まずはその生意気な唇から、だな)


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