どこまでも上から目線の彼
とある平日の昼すぎ。しばらくはテスト期間ということで学校は午前授業になり、部活もない。皆帰宅したりここぞとばかりに遊びに行ったり、其々に学校を後にしていった。
私はどうせ家にいても集中できないと図書館で勉強することを決めて、お気に入りの席に座ってテスト勉強を始めた。
しばらくして向かい側からカタン、と椅子を引く音がして前を見ると、同じクラスで仲のいい男友達が前に座っていた。
「蛍くん」 「何」
何ってなに、と思いつつ、ここに居ることが珍しい彼と会話をする。
「図書館に来るなんて珍しいね。今日山口くんは?」 「別にいつも一緒にいるわけじゃないし」
そうぶっきらぼうに言うけれど、彼が本当はいい人なのは十分わかっている。思わずクスリと笑いが零れて、そっか、とまた彼に視線を戻す。一度目があうとなんとなく逸らせずに、数秒見つめあった。
「ねえ、しようよ」
ふと彼が真剣そうな目でそう呟き、思わずその視線に引き込まれそうになる。
「なに、を?」
見つめ返したまま、どきどきと鼓動を早め始めた心臓を気にしていると
「…勉強」
いつもの顔で蛍くんが言った。 「そりゃそうだよねっごめん!」と早口で言った後、顔に熱が集まる。
一体なにを考えていたのか、と自分で自分がわからなくなる (蛍くんのあんな顔初めて見た…っ)
なんとか落ち着いて、そこから数時間はお互いに分からないところを教えあいながら勉強を進めた。段々と室内に伸びる二人の影が伸びていき、空が夕焼けに染まり始めると
「そろそろ帰ろっか」 「ん」
後片付けをして、二人で校舎を後にする。たくさん勉強した充足感と、こんなに二人だけでいたの初めてかもしれない、という事実に、頭が少しふわりとした気持ちになった。
駅までは同じ帰り道だからと、同じ速度で歩き出す。するとすぐに、手に持っていたトートバッグが蛍くんに奪われた。
「え、なに?」 「よくこんなに教科書詰め込んで帰るよね。そんなに腕鍛えなくてもいんじゃない」
冗談なのか本気なのかわからない嫌味を零す彼だけど、すぐに鞄持ってくれたんだと気づいて、彼の不器用な優しさに嬉しくなる。
「ありがとう、蛍くん」 「…別に」
そのまま二人で他愛ない話をしながら歩いていく。大体は私が話して蛍くんに突っ込まれる、なんていう流れだけど、それでもお互いの話し声は明るく響いていて。
十数分程歩き、もう一つ曲がれば曲がれば駅だ、という小道で、さりげなく車道側を歩いていた彼がすれ違う車から半身を寄せて庇ってくれた。
いつもそうだ。彼はさりげなく、でも絶対に優しい。
「蛍くん、なんでいつもそんなに優しいの?」 「は?好きだからだけど」
以前からの疑問をふと口に出して見れば、即座に返ってきた言葉。
「…え?!」 「なんだ、本当に気付いてなかったの?バカだね」
今、告白されたんだろうか。それにしては彼の態度や口調は、限りなくいつも通りで。
「え、え?本当に?」
ただただ混乱して真意を問うけれど、
「言っとくけど、僕はなまえの気持ちなんてとっくに知ってる。断るわけ、ないよね?」
なんて意地悪そうに笑うから。
「…はい」と言うのが精一杯だった。
そこからはほぼ無言で歩き出し、ついに駅についたと別々のホームへ別れるときがきた。 まだ顔の火照りがおさまらないで彼の顔を見られずにいると、蛍くんが口を開く。
「…今までこんなに態度で示してたのに、君は本当にバカだよね」 「うっ」 「それとさ、」
明日は勉強以外のこと、する ?
(…してあげてもいいよ) (珍しく挑戦的だね。後悔しないでよ)
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