私の希望と彼の期待
「東峰くん。今日日直だよね?私もなんだけど、部活あるだろうから私日誌書いとくね」
放課後の教室、彼に話しかける。ずっと同じクラスにいるから、彼の強面にも慣れ、本当は優しいってことも知っている。だからきっとこの提案も、
「いやいや、任せらんないよ!一緒にやろう!」
と、断られると分かってた。
日が落ちるのが早くなった最近。まだ放課後になって時間も経ってないのに、空がオレンジ色に染まり始めている。
最初は私が日誌を書いていて、書き疲れて手を振ると東峰くんが代わるよ、と言ってペンをとった。向かいあわせで座った机の上で、日誌上で動く彼の手を見つめる。
「大きい手…撫でられたら気持ちよさそう」 「え、」
(やば、声に出てた!)
ぼーっと見ていた中でなんか話しかけようと思っていたら、思わず心の声が出てしまったようで焦る。
「あ、あのー…わ!」 「こう?」
言い訳を考えていると、東峰くんの手が伸びてきて、私の頭の上にぽん、と乗った。顔、赤くなっていないだろうかと思い、東峰くんの方を見られない。
「…もっと、撫でて」 「…はい」
東峰くんの手から感じる温度があまりに心地よくて、つい強請ってしまう。彼はそれに応えて、なでなでと動かしてくれた。
そのうち段々と彼の手が横に滑っていき、私の髪の毛を梳いてから頬に触れる。その間、私達はずっと無言なわけで。
東峰くん、どんな顔してるんだろうとおそるおそる前を見ると、少し赤い顔をしながら、微笑んでいた。初めて見るその顔がすごく格好よくて。目があった瞬間、
「他にご要望は?」
と聞かれ、つい、
「キス、して。」と言葉を放った。
一瞬の間のあと、東峰くんはガタっと椅子から立ち上がり、あいている片手を机について、そのまま上半身を私に向かって傾ける。
頬に添えられた手に上を向かされ、お互いの唇が、触れた。
温かくて柔らかいそれは数秒で離れたけれど、東峰くんの体勢はそのままで。額をコツンとぶつけられる。
「…期待しちゃっていいの?」
と彼から絞り出された声に、こっちの台詞だよ、と返した。
どんな希望も叶えてくれる?
(他にご要望、は?) (…東峰くんの彼女になりたいです) (幸せにします!)
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