ハロウィンなので




今日はハロウィン

「おー、みんな可愛いじゃないか!」
「せんせー見てー!あたし魔女なのー!」
「僕、狼男―!ガオー!」
「おれオバケー!!」
「ははは!似合ってるぞー!」


日本ではあまり馴染のない祭事だが、学校の行事として今日は簡単に仮装をした。

いつもと違う雰囲気にテンションが上がっている生徒たちを見て、微笑ましげに笑っているのは教師で。
色々なオバケに仮装した子供たちがはしゃぐ様は素直に可愛いのだろう。


「わぁ!名前ちゃん可愛い!」
「えへへ、黒猫にしたんだー!みーちゃんの妖精さんも可愛いーね!」


ありがとう、とはにかむ友達と笑いあう。

頭からぴょこんと出てる猫耳に、猫の手の形をした手袋。
腰につけられているのは黒い尻尾。
それに見合った、オレンジと黒を基調とした服。

小さな可愛い黒猫娘。


「じゃあ、今日はこのまま解散だ!おうちのお父さんやお母さんに見せてあげよーなー!」
「「はーい!」」


先生さよーなら!みなさんさよーなら!
と号令をかけて、それぞれが家へと足を向ける。


「あれ?名前ちゃんどこいくの?」
「ちょっと行きたいところがあるから!みーちゃんまたね!」
「うん!またね!」


ばいばい、と元気よく手を振って。
名前はおおもり山を目指す。

せっかく仮装したんだから、と…。

頂上でひとり町を見下ろす彼を思い浮かべた。










ハロウィンなので










「……どうしたんだ、それは。」
「えへへー。どうかな?」


珍しくも目を見開いたオロチの前には、仮装をしたままの名前の姿。

少しばかり照れたようにはにかむ彼女は贔屓目に見ても可愛くて。
赤くなった顔がばれない様にと首元のマフラーを引き上げる。

それでも、期待でキラキラ輝く名前の眼には勝てなくて…


「……その…可愛い、とは思う…。」
「ほんと!?やったー!今日ね、ハロウィンなんだよ!」
「はろ……嗚呼、外国の盆か。」
「オロチ知ってたの?」
「知識として、くらいだが一応は。」


ゆらゆらと揺れる尻尾
ぴょこりと跳ねた耳
ハロウィンらしく装飾された衣類。
“可愛い”と言われて嬉しそうに笑う顔。


…可愛くない筈がない。


ただでさえ、少なからず想う少女がそのような仮装をしているのだ。
表面上はいつものポーカーフェイスを気取っていたとしても、内心はかなり機嫌が上昇している。

ジーッと見つめてくるオロチの心の内も知らず、名前はオロチへと駆け寄ってニッと笑みを浮かべた。


「じゃあオロチ!トリックオアトリート!」
「……はろいんの常套句というやつか。」


少し苦笑したオロチが懐から取り出したのは…ひとつの饅頭。

ぽん、と手渡されたソレには「元」と書いてあって。
あぁ、オロチのお気に入りの元祖饅頭だと察するのに時間はかからなかった。


「あはは!オロチこれも知ってたんだね!」
「菓子を渡さないと悪戯されるのだろう?…丁度持っていてよかった。」
「せいかい!…あーぁ、せっかくオロチに悪戯できると思ったのにな。」
「……。」


正直、ちょっと惜しかった。

なんて思っているオロチに気付きもしない名前は饅頭を口へと運んだ。
甘い味が口いっぱいに広がって…満足そうに微笑んだ顔に、オロチも表情を緩める。

そこで、フと気付いた。

この時間にここに居ると言うことは…学校が終わってすぐにやってきたのだろうと。
…小学校は菓子類の持ち込み禁止。

なら、今名前は…?


「……名前。」
「んぐ、美味しかったー!…なぁに?オロチ!」
「家には帰ってないのか?」
「うん、直接ここに来たから。」
「ほう……。」


にやり、と笑ったその表情は珍しくも表に出ていて…。
ビクリと名前の肩が跳ねる。

あ、ヤバイと


「名前。」
「えーと、そろそろ私帰……。」
「とりっくおあとりーと。」
「……。」


やられた。
と、素直にそう思う。

いや、何も考えずここにきてしまった自分が悪いのだが…。
まさか、オロチからそういわれるとは思ってもいなかったのだ。
あのオロチが、こんなイベントに参加するなんて…と。


「あの…オロチ……。」
「とりっくおあとりーと。」
「う……。」
「菓子をもっていないのか?」
「……。」


確認するような問いかけに、往生際悪くも「うー」とうねる彼女は…。
オロチからしてみれば「可愛い」以外の何物でもない。


「もっていないのなら…悪戯だな。」
「!ちょ、ちょっとまって!家からお菓子とってくる!」
「残念。時間切れだ。」


くくっ、と笑ったオロチの顔は、名前からしてみれば悪役の顔にしか見えなくて。
ずるい!と喚いてみても、お菓子が現れる筈もない。

するり、と名前の身体を自分に寄せて…抱き上げる。


「わわっ、オロチ……っ!」
「しっかり捕まっていろ。」


そのまま、遥か上空へ。

ぐんぐんと上がっていく景色。
地に足がついていない浮遊感。

ゾッと、怖くなってオロチへとしがみつき…思わず目を瞑る。

オロチの腕とマフラーにしっかり支えられているとはいえ…未知の高さ。
小学生の女の子が怖くならない筈がない。
びくびくと怯えていれば…フと上昇が止まる。

次いで掛けられたのはオロチの声だった。


「名前、目を開けてみろ。」
「や…やだ!」
「名前…。」
「やだぁ!こ、怖いもん!!」
「大丈夫だ、俺がついている。」
「……っ。」


オロチの優しい声に促されて…こわごわと目を開ける。
一番初めに視界に入ったのは…遥か足元にある見慣れた街並み。

思っても見なかった高さに、ザッと血の気が引いた。


「や、やっぱり怖い!やだ!!」
「足元を見るな。……あっちを見てみろ。」


ぎゅう、とオロチへしがみつく名前。
オロチからしてみれば役得なのだが…悪戯と称して名前を怖がらせたいだけではない。
ぽんぽん、と名前の背を撫でて…「それ」を見るように促す。

若干涙目になりつつある名前も、勇気を振り絞りそちらへゆっくりと振り向けば……

言葉を、失った。


「わぁ……。」


オロチが指さした先にあったのは…夕焼けの空。

太陽が沈みかけ、空が橙へと染まる。
名前の町もそのオレンジ色で覆われていて……。
オレンジと影の黒のコントラストが美しい。

思わず、目を奪われた。


「きれー……。」
「だろう?」


先ほどとは違い、目をキラキラ輝かせる名前に…思わず笑みが漏れる。


「夕方は、“逢魔時”と言うんだ。」
「おうまがどき?」
「書いて字の如く。…魔に逢いやすい時間だ。」


夕暮れの空。
二つの影が重なって宙へと浮かぶ。

ふわり
ふわりと。


「外国のはろいんというやつは…魔に連れて行かれぬように、悪戯されぬように、自ら魔に扮するのだろう?」
「そうなんだ…。」
「…知らないで仮装していたのか。」
「だってお祭りなのかと思ってたもん。」


えへへ、と誤魔化す様に笑う名前に…。
オロチも呆れたように笑う。

もう高さへの恐怖も忘れてしまっているらしい。
目の前の光景に目を奪われ…オロチへ体を預ける。
そのオロチに対する絶対的な信頼が……どこか、心地良い。

胸の内をくすぐられるような感覚に、オロチは少し…名前を抱きしめる腕の力を強めた。


「…もう遅くなるな。帰ろう。」
「えー…もう?」
「……気に入ったのなら、また連れてきてやろう。約束だ。」
「ふふ…うん!約束ね。」


果たしていたずらになったのかならなかったのか。

元の場所へと降り立ち。
手を振って家に帰る名前を見て……。


まぁ良いか。


と満足げな表情を浮かべたオロチでした。















(オロチー!はい、どうぞ!)
(…この大量の菓子はどうしたんだ?)
(昨日お菓子あげられなかったから!)
(別に俺は……。)
(頑張って作ったの!)
(……名前が作ったのか?)
(うん!もらってくれる…?)
(ありがたくいただこう。)

Happy Halloween!!


End


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皆さまハッピーハロウィーン!!

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2014/10/31


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