愛すべき馬鹿な人





私たちは二卵性の双子だ。
食満家の三番目に生まれた双子。


留三郎と、私。


双子と言うだけあって…とても似ていた。

鋭い目つき、喧嘩っ早さ。
歳を重ねるごとに、体格に差は出てきたものの…。

普通の娘と比べ…おおよそ女らしくない私。

小さいころは、留三郎が忍たまで、私がくのたま…なんて納得いかなくて。
駄々をこね、学園に無理を言って女の私を忍たまにしてもらった。
(男装を条件に、だったけれど。)

私は「苗字」と名乗り、留と共に入学した。


そして、月日は流れ…



私たちは六年生になった。










愛すべき馬鹿な人
(7500キリリク)










「おい苗字。こっちの計算頼む。」
「ん。これ終わったとこだから…確認よろしく。」
「おう。」


パチパチ、と算盤を弾く音が静かに響く室内。
そこには六年い組の潮江文次郎と、同じく六年生の食満名前が帳簿の計算をしているところだった。

ちらり、と室内を見渡せば…
完璧に眠ってしまっている一年生。
左門は…あと数分もすれば落ちてしまうだろう。
三木ヱ門も頑張ってはいるが…もう限界が近い。

ふぅ、と小さく息を吐く。

そろそろ解散させた方が良いだろう。
(明日の授業に響いては何の意味もない)
筆をおき、三木ヱ門へと声をかければ…酷く眠そうな視線が私を捕えた。


「三木ヱ門。その帳簿も、もう終わったろう?あがりなさい。」
「えっ…。しかし、まだまだ終わってない帳簿が…。」


先輩である私たちを差し置いて、さきに上がることに抵抗があるのだろう。
オロオロと不安げな顔をした三木ヱ門に苦笑する。

真面目なのは良いことだが、真面目過ぎるのも考え物だな。


「構わないよ。急ぐ帳簿は終わった。残りは後日でも良いだろう。」
「でも…。」
「…その変わり、頼みたいことがある。今にも寝そうな左門を起こして、一年達を部屋に連れて行ってくれないか?」


指させば、机の上に突っ伏している一年と、船をこぎ始めた左門の姿。
下級生の姿に、三木ヱ門がはぁ、とため息を吐く。
(嗚呼、この子は苦労性になりそうだ)


「…わかりました。お先に失礼いたします。」
「お休み。ゆっくり体を休めなさい。」
「はい。……苗字先輩、ありがとうございます。」


律儀にも、ぺこりとお辞儀をして部屋を出た三木ヱ門。

…相当眠かったのだろう。
筆をしまい忘れてしまっている。

三木ヱ門の珍しい失態に、くすくすと笑いながらその筆を片づけた。


「ったく…お前はアイツと同じで後輩に甘いんだよ。」
「文次郎が厳しすぎるんだろう?…本当は早く寝かせてやりたいくせに変な意地はって。」
「…やかましい!」


ほんの少し頬を染めて、再び帳簿に向き合う文次郎を見て…くすりと笑う。

本来、この男の心根はとても優しい。
(その証拠に、私が三木ヱ門を上がらせるとき、この男は何も言わなかった。)

…優しいからこその厳しさがあるのだが…時折、それは度を越してしまう。
それにストッパーをかけるのは私の役割だ。


「さて、と…。次はこれだっけ?」
「……。」
「?…文次郎?」


続きをやってしまおうと、確認のため帳簿を持ち上げれば…。
文次郎は、じっと私を見ていた。

……私の顔に、何かついているのだろうか?


「何?」
「いや、苗字ももうあがれ。」
「え…。でもこれ今日中にやっとかないと間に合わないだろう?」


三木ヱ門にはああ言ったが、急ぎの帳簿はまだまだある。
小首をかしげた私の言葉に…文次郎は、はぁ、と小さくため息を吐いた。


「それも俺がやっておく。お前はあがれ。」
「なんで。二人でやった方が早く終わる。」
「いいから。あがれ。」
「…何だそれ、納得できない。」


ついつい、語尾が強くなってしまう。

普段は穏やかに見られがちだが…基本的に喧嘩っ早いこの性格は、自分の片割れに瓜二つだ。
じとり、と文次郎に睨み付けるように見れば…。

何やら気まずそうに頬をかく。
そして…


「……うるせんだよ。お前の片割れが。」
「は?」


ぽつり、と聞こえた言葉に首をかしげた。
その瞬間。


「オイコラ老け顔。テメェなに人の妹と二人っきりになってやがんだコラ。」
「……きやがった。」


バン!と戸を開け放ったのは他でもない、私の片割れだったわけで。

驚いて目を丸くさせてしまう。


「留!何、どうしたんだ?いきなり…。」
「おい名前!お前もこんな野郎と二人っきりになってんじゃねぇよ。襲われるぞ。」
「誰が襲うか!!バカタレィ!!」


バン、と机をたたきつけ、立ち上がった文次郎に対し、留はハッと鼻で笑ってみせた。

…ここで一つ誤解が無いように言っておきたい。


私と文次郎は、恋仲ではない。


私の正体は…バレてしまってはいるが。
文次郎とは友人である。
おなじ組で、同じ委員会。

良き相棒、と言ったところだ。

そこへ邪推しているのが我が片割れ留三郎。
何かと私と文次郎が二人きりになることを極端に嫌がっているのだ。

…それもひとえに…双子だから…
私の中にある、文次郎に対する恋心に気付いてしまっているのかもしれない。


「おい名前!さっさとその馬鹿を連れて行け!」
「ぁあ!?人の可愛い妹に色目使ってんじゃねぇぞハゲ!!」
「誰がハゲだ!!テメェこそいい加減妹離れしたらどうなんだバカタレが!!」


両者から「ブチリ」と何かがキレる音がして…マズイ、と思った時にはもう遅かった。


「テメェに名前の何がわかるってんだ!!」
「ぁあ!?ならテメェは名前の何を知ってんだアヒル野郎!!」

「ちょっと、二人とも……。」

「隅から隅まで知ってんよ!!何せ生まれたときから一緒だからなァ!!」
「ぐ…っ!!俺だって授業も委員会も同じで四六時中一緒なんだザマァミロ!!」
「てめ…っ名前がい組であること逆手にとりやがって…っ!!」
「だいたい!お前がちっとも落ち着かねぇから名前だって心配で男装してまで忍たまの教室にきたんだろうが!!」
「ちーがーいーまーすぅーっ!!名前は俺と離れたくなくて忍たまに来たんだよ!!」
「あ゛!?」

「おーい…。」

「留だけずるいって名前も忍たまになったんだよ俺と一緒に居たいってことじゃねぇかバーカ!!」
「っ!!だとしたら尚更名前があんななのはテメェのせいだろ!!」
「あんなとは何だあんなとは!!ぶっ飛ばすぞテメェ!!」
「どうせ名前のこと女だと思わずガキんときから引っ張りまわしてたんだろうが!!」
「う…っ!!」
「図星じゃねぇか!!自分とおんなじように扱ってたら男みてぇになるのも当たり前だろ!!」
「な、なんだよ!!うちの名前が可愛くねぇとでも言いたいのかテメェ!!」

「可愛いに決まってんだろ!!!!!」


ってんだろー…
んだろー……
ろー……

シン…とした夜の空間に。
一際大きく放たれた文次郎の怒声のような声が響く

それはまるでヤマビコのようにあたりに響き…。
ハタッ、と二人の怒涛の応酬が止まる。


今、文次郎は何と言ったのか…。


思わず文次郎を凝視すると…、こちらを見た文次郎とバチッと視線がぶつかった。
キョトン、と見上げる私、半ば唖然と私を見下ろす文次郎。
そして、一拍おいた次の瞬間。


ぶわっ


と、まるで茹で蛸のように…。
文次郎は顔だけでなく、首元まで真っ赤に染めあげた。


「ち、違うぞ!いいい今のは言葉の綾で…っ!!」
「……。」
「いや、その…っ言葉の綾と言っても、わ、悪い意味じゃない!!」
「……。」
「お、お前が可愛いのは事実であって…っ違う!!…あ、いや、違わな…いやいやいや!!」


完全にパニックに陥っている。
その文次郎の姿が珍しくて…つい、見つめてしまった。
(…本当は、驚きすぎて動けなかったのだが…)

外の茂みから「ブフォ!」と数人が噴き出す声。
それだけでなく、所々から笑いを必死にこらえる声が聞こえて…
反射的に苦無を投げつけた。

その瞬間、茂みから四方に散る人の影。

…仙蔵、小平太、長次…伊作もいたな。
あちらに散ったのは…五年生か。

私の事情を知っている六年のいつものメンバーだけならまだしも…。
…ついに、五年生にまで、私の正体がバレてしまったな。
と、ため息を吐きつつ、片手で目元を隠す。


嗚呼、もう、本当に……。




この真っ赤になった顔の責任はどう取ってくれるのだろうか。




パニック状態で、未だ言い訳になっていない言い訳をつらつらと並べる文次郎。
その後ろで…ゆらり、と立ち上がり真っ黒いオーラを纏ったのは…私の片割れ。


「………おい…。」
「あ゛!?だから俺は名前のことは可愛くないと思っていないわけだがむしろ好…」
「死ねコラァアアア!!!」


ついに自分の得意武器を取り出し、本気で殺りにかかる大切な片割れ。

それをギリギリで交わしつつも、いまだ言い訳を続けている……愛しい人。

このカオスな状況を静めるために、私も得意武器を持って立ち上がる。
夜中に騒ぐ野郎どもには制裁を喰らわせてやらねば。
(こんな状況でも血が踊るのは…やはり血筋なのだろうか?)



嗚呼、本当に、もう




馬鹿ばっかりだ!















(ねぇ、留……。)
(やらん!!あんな奴の嫁になんてやらねぇからな!!名前もあんな奴に惚れてんじゃねぇ!!)
(やっぱ私の気持ちに気付いてんじゃねぇか馬鹿留。しかも飛躍しすぎだ阿呆。)



愛すべき馬鹿な人 END


―――――

亜美様!
7500キリのご報告ありがとうございました。
そして、リクまでいただいてしまって…
本当にありがとうございます。

文次郎お相手で、食満双子妹
男装でギャグ甘ということだったのですが…。
ご期待に副えてますでしょうか?

この度は本当にありがとうございました。

お話を呼んでくださった皆様も、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

※こちらの作品は亜美様のみお持ち帰り可能となっております。

くるり

―――――
2014/07/11


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