みどりの青臭さが鼻孔をくすぐる。額からなめらかに落ちる汗と同様、口に含んでいるアイスキャンデーも汗をかく。毎年この季節になると、私はこのアイスキャンデーを食べる。スーパーに寄っては、お洒落なカップに入ったアイスに存在をかき消されているこの子を手にするのだ。
 小さいころにお母さんが買ってきた思い出が蘇るだとか、近所に住んでいた大好きなお兄ちゃんによく貰ったとか、そんなことがあるわけでもないのに。なんだか、『みんなの憧れのアイスに勝とうなんて思ってないけど、気が向いたら買ってちょうだい』と言ってるような気がして、つい手に取ってしまう。そんな素朴な味や存在が人事ではないと同情しているわたしを、どこか冷めた目で見ているわたしもいた。

 日焼け止めを塗りたくり、麦わら帽を被って光の濃淡を楽しむ。絶対に焼けたくないと思いながらも、家に帰って鏡を見たら結局は黒くなっちゃう。

「もう一本、食べようかなぁ」

 木陰と太陽の境目を見ながら、この色が変わる一歩手前で立ち止まる。触れればこの暑さなんて忘れてしまうのではないかと思うほど、透き通る白さを持つ彼は、柔らかく口元を動かしてきっとこう言うはず。

『じゃあ、俺の分もヨロシク』

 キザなあなたは手から一本の薔薇を出して、わたしへのプレゼントと喜ばせてくれた。受け取ろうと思ったら急に爆発音がして悲鳴をあげると、手のひらには一つの指輪。にんまりと白い歯を見せて笑う彼に、アイスキャンデーにこんな価値があるとは思わなかったと告げると、『お前の買うアイスキャンデーだからだよ』と、むずがゆくなるセリフを言われるのだった。

 夏になれば、同じアイスキャンデーをここで食べ変わらぬ一年を送っていたのに、気づけば彼は全世界の人を魅了す存在になり、ぽつねん私だけ。彼はそのことを言わなかったけれど、このわたしが気づかないとでも思ったのだろうか。繭のように白い満月を引き裂いて飛ぶあなたをテレビで見たとき、チェーンに通した、わたしと同じ指輪をネックレスにしていたね。





パラレルワールドに生きる君へ


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