お客様から配達の要望が届けば、お昼ごはんを食べていようが仮眠をとっていようが、はたまたお腹を壊してトイレにこもっていようが関係ない。僕達、お客様第一配達員! 人間らしい生活など約束されやしないブラック企業。どうぞお見知りおきを!

 ……とまあ、確かに、定期的な休みは約束されないし、休暇を頂いたとしても人手が足りなければ駆り出される。そんな感じで友人に話せば、眉を八の字にして「大変だなぁあんまり無理すんなよ」と、どこか物語を聞いてるかのような態度で返事をした。そんな友人は、有名な会社に勤めて給料もたくさん貰い出世をし、誰もが羨むエリートの道を歩んでいる。僕の業務を聞いていれば、いかに自分が恵まれた環境にいるかを実感出来るだろう。それでいいんだ。比べたところで仕事内容が変わるわけでもなく、友人を羨ましく思ったり配達業を悪く言うようなことはない。僕は好きでこの仕事をしていて、月並みだけどお客様の「ありがとう」という感謝の言葉で頑張れ、やってよかったなぁって思えるのだから。
 友人と食事をする時はうんと高い物を頼んでたらふく食べ、最後に「あ・り・が・と・う」「どういたしまして」ここまでが恒例行事。世話好きで僕を友達ではない感情で接してくれる彼のおかげで、食事代は別のところに回せて助かっている。

 お客様から感謝されることに生き甲斐を感じている僕は、みんなが敬遠する辺鄙な地でも喜んでほいほい引き受けるので、お年寄りから子どもまでたくさんの知り合いがいる。いつでもどこでも且つ迅速に対応してくれるというサービスが好評で、リピーターが多いのも事実だ。そんなお得意様がたくさんいる中、そのうちの一人であるポケモントレーナーの女性に好意を抱いていた。と言っても彼女が利用しているのではなく、彼女のおかあさんが利用してくれているのだけど。届けられた物を手渡すときに、おかあさんからの荷物だとくしゃくしゃの笑顔を見せてくれ、配達員としてお役に立てたという嬉しさがあるのはもちろん、男として彼女の役に立てているという嬉しさもあった。毎度あんな表情を浮かべるのは、家族に会いたいって思う気持ちが全面に出ていると断言出来る。そうだよね。さみしいよね。あんしんしたいよね。

 彼女宛ての荷物が届けば、何が何でも担当を僕に変更してもらい、少しでも関わる時間を作る。別のお客様で僕直々にご指名を頂いたりすることもあるし、大切にしなきゃいけないのも分かっているけど、この機会を無駄にするわけにはいかない。同僚や上司からは不審な目で見られるが、周りの目線なんてこれっぽっちも気にならなかった。
 金欠の時に切れると困るような……例えば回復アイテムや彼女自身の風邪薬など、常使用する物ではなくあると便利な物。旅をして身なりに気を使えないと言っても、女の子だ。お洒落関連にも興味はあるはずなので、あまい香りのする香水やローション。ごはんを買う余裕がないのであれば、日持ちのする食べ物。いつもと変わらず荷物を手渡すと、「私が困ったり落ち込んでると、絶妙なタイミングで届けてくれる!」と感動する彼女。魔法のことば「配達員さん、いつもありがとう」。背筋がぞくぞくと震える中、僕の顔にどんぶらこと揺れる舟と二つの三日月。


 今日も物陰でそっと息を潜める。制服も汚れが目立つようになってきたし、会社から手渡されている通信機に何件も連絡が入っていたが、それもはたと無くなった。

「親子だからかな? 私が困っていると、その思いが届いちゃうんだろうねぇ」

 ポケモンを抱きしめ、ほっぺを赤くしながら前へ進む貴女を後ろから見守っています。形振り構わず人を愛せる気持ちは、どんな宝石よりも絵画よりも価値がありお金で買い取ることは出来やしない。僕と愛を育み形にし、その作品を大事に育てたいと思ったけど「配達員」と「お客」という関係性は崩せない。彼女が僕に対して、ただの配達員としか思っていないのは十分に理解しているし、おかあさんのお届け物に勝てないことも知っている。そうなると僕の出来る事はただ一つ。彼女の欲しい物をすぐ手渡せるよう、我が身朽ち果てるまで、ずっとずぅっと、あなたの傍に。





「おかあさんからのおとどけものです」


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