02


[影山side]


『おかえりー。…うわ、何その顔』

「…?なんだよ」

『眉間の皺3割増し。もっとにこやかにすれば?』


家に帰ってリビングに入ったら、ソファに座ってテレビを見ていた紗夜がこっちを振り向いた。

機嫌が悪いのは自覚してる。けど、紗夜のいつもと変わらない軽口に少しだけ身体の力が抜けた。

それに気づかれたくなくて、目を合わせなくて済むように隣に座った。紗夜は鋭い。誤魔化すように特に意味もなくチャンネルを変える。


『ねぇ、あたし見てたんだけど』

「どうせ流し見てただけだろ」


本当に見ている番組なら、コイツは俺がリビングに入ってきてもテレビから目を離したりしない。

まぁそうだけど。そう呟いた紗夜は適当にチャンネルを合わせたバラエティ番組を黙って眺めていた。

なんとなくかけた番組は全く頭に入らない。出演者や観覧者が笑っているのをただ見ているだけ。隣を盗み見ると、紗夜も同じようだった。


「…風呂入ってくる」

『ん』


テレビをドラマに戻してリビングを出た。特に文句を言わなかったから、バラエティだろうとドラマだろうと何だってよかったんだろう。

部屋に入って、カバンを床に下ろす。着替えを用意していたらメッセージアプリの通知音が聞こえた。


「アイツ…」


スマホを手に取ってアプリを開くと紗夜からで、ベッドに置いてある本を持ってこいという内容だった。

なんで俺がパシリみてーなことしなきゃなんねーんだ!

そうは思うものの、昔から紗夜には逆らえない俺の足は自分の部屋を出て隣の部屋へと向かう。


「くそー…!」


やや苛立ちながら扉を開けて中に入ると、俺の部屋とは違う明るい配色のカーテンやベッドが目に入る。ベッドの枕元にカバーをつけた本があった。


「これか?」

『そう、これ。ありがとー』


リビングに戻って本を手渡した。紗夜が寝転んだままページをめくる。


「自分で取りに行けよ」

『いいじゃん、部屋隣なんだし。ついででしょ』


しおりを挟んだところを探しているらしい紗夜は本を見たまま話す。いつもは気にならないそれが、なんだか無性に気に入らない。

こっち向けよ。俺を見ろ。話を聞け。

そんな言葉が出かかって自分でも驚いた。いつもはこんなこと言わないし、思わない。

俺は、紗夜に話を聞いてほしいのか。

そう気づいたけど、何を話せばいいのかさっぱりわからなくて仕方なく風呂に向かった。


「腹、減ったな…」


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