01


[紗夜side]


『おかえりー。…うわ、何その顔』

「…?なんだよ」

『眉間の皺3割増し。もっとにこやかにすれば?』


リビングに入ってきた飛雄を振り返ると、いつにも増して不機嫌顔だった。

うるせぇなと呟いた飛雄はあたしの隣にやや乱暴に座った。ぎしりとソファが悲鳴を上げる。

そういえば明日は入部がかかった大事な試合なんだっけ。それにしてはやけに機嫌が悪い。

"俺はセッターだ!絶対勝つ!"

と言って朝は意気込んでたはず。

どうしたんだろう、と思っていたら飛雄がピッピッと電子音を響かせてテレビのチャンネルを変えていく。ドラマ見てたのに。


『ねぇ、あたし見てたんだけど』

「どうせ流し見てただけだろ」


まぁそうだけど。なんとなくかけてただけで内容なんてちっとも頭に入っていない。

しばらくバラエティ番組を眺めていた飛雄がさっきのドラマにチャンネルを戻して立ち上がった。


「…風呂入ってくる」

『ん』


リビングを出た飛雄が自室に戻るために階段を上がる。とんとんとん、という一定のリズムを刻む足音を聞きながら再びテレビを見る。

ほんの数分の間にドラマはずいぶん話が進んでいた。ラブシーンに至った経緯がわからず、もういいやと電源を落とす。

ソファに寝転んでスマホを手に取る。メッセージアプリを起動して短くメッセージを送るとすぐに既読がついた。けれど返信はない。

しばらくして飛雄がリビングに戻ってきた。手には着替えと一冊の本。


「これか?」

『そう、これ。ありがとー』

「自分で取りに行けよ」

『いいじゃん、部屋隣なんだし。ついででしょ』


手渡された本を受け取ってぱらぱらとページをめくった。文句を言いながらもちゃんと取ってきてくれるから助かる。

だけど、普段ならもう少し文句が続くはずなのに飛雄は黙って浴室に向かう。その背を見送りながら、あとで問い詰めてやろうと思った。


『…落ち込んでる飛雄なんてらしくないよ。ばーか』


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