三成くんと名前くんが結ばれたのは今にして思えば僕が死ぬ二年前で、あの時に見た白無垢と紋付き袴は忘れない。
愛のせいで己が弱くなると言った秀吉でさえ、目を細めて二人を祝福していた。それほどひどく愛らしい様だったのだ。結ばれるまでのいじらしさをヤキモキしながら見ていた僕としてはなおさらだった。ああ、でも吉継くんの方が喜んでいたのかも知れない。彼にしては珍しく本当に嬉しそうに笑っていた。


「随分とね、骨を折ったよ」


目の前のソファーに礼儀正しく座る三成くんに言えば、すみませんと肩をすくめた。

「すみません半兵衛さま」
「嫌みじゃないから大丈夫だよ。あっ、でも嫌みかな」
「はあ、」
「苗字殿を説得したのは僕なんだよ」


名前くんの父君を説得するのが一番苦労したのだ。何せ彼は娘と三成くんが婚姻を結のを断固として反対していたのだから。

「元々、政略結婚をさせようと思っていたんだろうね、彼は」

三成くんに紅茶を勧めれば、また肩をすくめてから受け取った。

「あの、つかぬことを聴きますが」
「うん?」
「政略結婚の相手は」
「…気になる?」


紅茶に口つけて上目遣いすれば、はいと言葉が返ってきた。

「家康くん。」


ガチャンと音がして、近くにあったタオルを渡す。


「ふふっ」
「お笑いにならないで下さい半兵衛さま!」
「ごめん、あんまりにも思った通りの反応だったから可笑しくってね。」


真っ赤な顔をして制服を拭う三成くんに笑いかける。


「い、家康と、名前が」
「そう。僕は後の君達の争いを知らないから何とも言えないけどね。」


物心ついて初めに調べた豊臣の末路には眉を潜めた。三成くんと名前くんの最期にも。
再び出逢ったとき、秀吉は勿論、三成くんを抱き寄せてしまったのはあんまりにも健気で悲壮な前のためだ。吉継くんには丁重に断られてしまったが。


「しかし驚いたよ」

カップを拾っていた三成くんが首を傾げた。

「名前くんの記憶だけがない。」


高校で二人が再会したとき、僕は二人が熱く抱擁を交わすだろう、手を取り合って涙するだろうと思っていたのだ。それなのに、名前くんは三成くんに目も呉れずに友達と話していた。
記憶がないのか、その事実に気付いたとき唇が震えた。


「半兵衛さま、名前は前に自刃したのです」
「うん。書で見たよ。理由は」
「それが分からぬのです。」


その時のことを思い出したのか、三成くんは顔を伏せた。


「関ヶ原の、後、名前が居る大坂城へ急いで戻ったのです」
「うん」
「そしたら、」


そしたら、三成くんは肩で息をしながら両手で顔を覆った。


「そしたら、名前が、自室で胸を突いて倒れていたのです」


紅茶を飲む。
自殺です、と三成くんが呻いた。


「理由が分からない。名前は聡い、自刃するくらいなら落ち延びようと考えるはずです。現に腹には」

はっと三成くんが顔を上げた。

「やや子がいたの」

はあ、三成くんが崩れ落ちるような溜め息を吐いた。

「自刃する、わけがないのに」


紅茶を飲み干す。彼の痛みに堪える表情にこちらの方が痛んだ。


「そのあと私は、家康の兵に捕らえられ斬首されましたから、結局真相を知らぬままなのです。再び逢えた名前の記憶はない、真相を知っていそうな者は居ない。私は、」


真っ直ぐこちらを見た目に、口角をゆっくりと上げた。

彼の最愛は、記憶をすっかり前世に置いてきたお姫様だ。



 

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