石田くんからカバンを取ったあと、私は家康くんの手を引きながら早足で下足室へ向かった。
息が浅くなる。どうして、どうして私を突き落とした本人が私のカバンを持って保健室への廊下を歩いていたのか。それにあの表情では、まるで何にもしていないような顔じゃないか。
下足室へ着くと、思わず自分のロッカーの前で膝をついてしまった。
「大丈夫か」
「…うん、平気。少しびっくりしたの」
家康くんの声に笑いながら返事をしたが、どうやら私の笑みが引きつっていたらしく、不信そうに私の顔を覗き込んだ。
「顔が青い。三成と、何かあったのか?」
「それは、」
言うべきだろうか。家康くんの目を見詰めながら少しの合間逡巡する。
「何でもないの」
心配をかけてはいけない、そう思って頭を振る。
話題をかえようと笑顔を作ろうとしたとき、家康くんが私を抱き締めた。
「えっ」
「名前、一人で抱え込まないでくれ。ワシがいる。な、三成と何があったのか話してくれないか?」
さらさらと髪を撫でられ、私は一つ頷いた。胸が高鳴る。
「その、あのね」
「うん」
「私を突き落としたの、」
石田くんなの。
そう言った瞬間、家康くんの私を抱き締める力がより強くなった。
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