袖を通したばかりの陣羽織の裾を引っ張れば、三成様はくるりと振り返った。
「名前、どうした」
「いいえ、深い意図はなく」
「ん、」
「…三成様」
「どうした」
「私、待っていて良いですか」
「当たり前だろう」
頬に冷たい手が添えられた。私の両の手でその手を覆えば、ひんやりとした感触がより伝わった。
「つめたい。」
「名前は暖かい」
「…ねえ、三成様。私、戦は嫌いです、あなたが傷つく」
「私は丈夫だ。名前」
ゆっくりと抱き寄せられる。この、この別れを悟った瞬間が切なくて辛くて仕方ない。
「苗字殿共々無事帰って来る。泣くな、」
「泣きませぬ、私は、私はあなたの妻ですよ」
きゅっと口角を上げる。目頭が熱い。鼻がツンとした。指先が震える。
「三成様、三成様待ってますから」
どうかご無事で。
いつかこの一言を言わずにすむ日が来れば良いのに。永久な平安、太閤殿下の統べる、永久の。
「愛してる」
どちらともなく言って体を離す。
「あっ」
外気に触れた。待って、待って。どうしてこうも華奢な背中に縋りたくなるのか。愛してる、そんな言葉でずっとあなたをつなぎ止めたい。三成様、私はあなたを、
あなたを、
「好きなのかなあ」
「はあ?」
横でパックの林檎ジュースを飲んでいたかすがが素っ頓狂な声を上げた。
私はぼんやりしたまま答える。
「私、家康くんのこと、好きなのかなあ。」
私は、あなたを愛している。さようならと言えないほど、行ってらっしゃいと言えないほど、おやすみなさいと言えないほど。この胸が焦燥に駆られてあなたの背に手を伸ばすほど。
「愛してる」
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