「珍しいこともあるものよなあ」


三成の右手に包帯を巻きながら呟けば、三成はフンと鼻を鳴らした後で目を逸らした。

襲われた、ぶっきらぼうに言い放った三成に開いた口が塞がらなくなった。
聞けば、眼帯をした男とその連れらしき数人に襲われたらしい。


「眼帯とはなあ、伊達か」
「伊達?」
「小田原でぬしに負けた」
「昔まったく同じ言葉を聞いた」
「言ったからな」


喉で笑えば、三成がそうかと呟いた。


「伊達、伊達という奴か」
「しかし鈍ったか三成」
「鈍った。」


右手をじっと見ながら答える三成に一瞥してからハサミを取り出す。


「何人いた」
「十四」
「それを倒せぬほどになったか」
「素手だった」
「素手なあ」


ハサミで包帯を切って留めれば、三成が礼を述べた。珍しい。


「三成、ぬしは丸くなった」
「……」
「肥えたという意味ではない」


自身の腹をペタペタ触った三成に言えば首を傾げた。


「なら、何だ」
「ぬしは名前と目出度くなってから随分と温和になった」
「私が?」
「ただ、最近はまた荒れてるか」


ちらりと目を遣れば、一つ瞬きをした後で首をゆるりと振った。


「刑部、知っているか」


包帯と鋏をなおしながらさあ、と返事する。三成はスンと鼻を啜ってから呟いた。


「名前が家康を呼びつけている」
「なに」
「昔なら有り得ない」
「何故ぬしはそれを捨ておいた」
「捨ておくわけがない!何故だ刑部、何故名前は」


悲痛な表情をした。それ以上に言葉が紡げないのか、口を二、三度動かしたがついに閉じてしまった。


「…もうすぐ梅雨よ」


何となしに言いたかった言葉を呟いた。三成には酷か、しかし言わねばならない


「何が言いたい」


顔を伏せてしまった三成の髪を見ながら話す。


「今の齢の梅雨だったか」
「ああ、」
「三成。徳川と名前が何故近付いているか分かっておるか」


ふと顔を上げた。


「前の世からな、徳川は名前にご執心なのよ」


 

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