星の時計台 | ナノ
Careless demander〜とある日の事件簿〜1


春の暖かな陽気に誘われて少女は一人、無駄に広い宮廷の中庭に設けられたカフェテラスに足を運んでいた。

普段から見慣れているはずの自然の景色が今日は何故だか一段と美しく見え、彼女は庭の片隅にある白い丸テーブルの上に腕に抱えていた数冊の分厚い装丁の本を置いた。


穏やかな風が吹きすさび、少女の着ている桜色のシルクのドレスをふわっと揺らした。
腰まであるライトブラウンの長い髪がゆるゆるとたなびき風に鳴らされた木々の音を聞く。




「今日もいいお天気ですわね。セオールはいつもわたしをほっぽってお仕事ばかりだし、今日はお兄様もお忙しそう。一人でいるのって、淋しいですわ」

良く晴れた青空を見つめ、少女はそんな大きな独り言を呟いた。
空を見つめる瑠璃色の瞳が心做しか涙目になっているようにも見える。









「あ―‥あれ? そこにいらっしゃるのは……あっ ひ、ひ、姫様ぁ!? あわわっ あ〜っ あぁあっ!!!?」


ドサドサドサー

バサッ


少女がぼんやりとしていると、突如物凄い音と共に間延びした少年の慌てふためく声が聞こえた。

その音と声に驚いて其方を振り返ると、恐らく抱えていたのであろう数冊の書物らしきものを散らかし芝生の上に突っ伏してしまっている癖のある濃い青髪の少年の姿が視界に入った。





「………リ、リシュカ? あの、大丈夫ですの? わたし、何か貴方を驚かせるようなことをしたのかしら?」

少女は目を丸くし、芝生に突っ伏して倒れている……基い、こけている少年に歩み寄り声をかけた。




「すっ すすす、すみませ……姫様っ 少し、動揺してしまいました……」

(ななな、何でこんなところに……ひっ 姫様が……!? あわわわっ どっ、どうしよう……)

ドキドキとうるさくなる心臓をおさえながら、リシュカは内心だけでなく表向きにも動揺を隠せなかった。




「大丈夫ですか? あらあらぁ〜 頬に傷が出来てますよぉ ちょっと失礼しますねぇ?」

慌てた様子で散らかしてしまった書物を拾い集めていると、少女が唐突にリシュカの頬に手の平を宛がい、そう言った。

「えっ!? アナ、アナスティア様っ ななな何を……!!」

少年は更に慌てて彼女から離れようと後退りをしてしまった。

「あっ! 動かないで下さいな〜 わたし、まだ魔法のコントロールがうまく出来ないんですのよぉ? 失敗しちゃいますぅ〜」

そんな少女の声にリシュカはハッと我に返る。
横目で其処を見遣ると、ポゥと、アナスティアの手には淡い金色の光が浮かび上がっていた。


「っ、え?」

(これは、癒しの精霊魔法――‥? でもアナスティア様にそのお力は……)

その時、少女の手に浮かぶ光の効果を予想する少年の心は少しずつ落ち着きを取り戻しているように感じられた。



しかし、その刹那――



ボフンッ



リシュカの耳元で間の抜けたような、そんな空気が弾ける音がしたのだった。









Careless demander
〜とある日の事件簿〜


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