星の時計台 | ナノ
SNOW CRYSTAL


ちらちらと透明な華の形をした結晶が降り注ぐリコリスの丘の上に、少年は立っていた。
小さな街の高台にある小さな丘。そこには一本の大木が聳えたっている。
秋が近づいて来るとその周りには赤いリコリスの花が咲き乱れることから
ここは“リコリスの丘”と呼ばれていた。


故郷の小さな街の中で唯一少年が安心して過ごせる、お気に入りの場所であった。



春には小鳥や野性の小さな動物が集まり、夏には新緑の草木が生まれる。秋にはリコリスが咲き乱れて、冬になれば雪が降り、外の世界を白銀に染めた。
そんな自然豊かな小さな街の丘。




十二月(しわつき)下旬のこの時期は、普段静かで穏やかな街が活気にあふれ賑わう時期でもあった。
だが、丘に立つ少年の表情はくもっているようにも見える。
ちらりちらりと降る雪の結晶に片手を広げてそれらを受け止めながら、少年は灰銀色の空を仰いだ。



「お母様」

少年の、薄い紫色の髪が風に揺れる。ぼうっと空を見つめる瞳は、淡い金色の光を纏った満月のような琥珀の色をしていた。








「う、うぅっ……にいたま、こんなところにいたの?」


ふいに耳をついた、舌足らずな小さな少年の声に気付き視線だけをそこに向けた。
暖かそうなファーのついた白いポンチョを羽織り、冷える手に息をはきかけながらおぼつかないあしどりで、小さな少年がよたよたと駆け寄ってくる。


「……リシュカ。寒いだろ? 先に屋敷に帰っておいでと言ったのに」

少年は駆け寄ってきた小さな少年の癖のある青い髪に触れて、その髪についた白い雪の結晶をそっとはらってやった。



「セオが、にいたまを呼んでこいって言ったの……
たぶん、りこりすの丘にいるからって。せいやさいが始まるから」

リシュカと呼ばれた小さな少年は、目の前に立つ琥珀の瞳の少年の顔を見上げてそう説明する。

「あ、そっか。今日は“聖夜祭”なんだっけ?
そう言えばセオールのお屋敷でもパーティーをするって、お父様が言っていたんだった……」

今更気がついたように少年は苦笑して、二人はリコリスの丘を下りようと歩みを進めていると



「リシュカくん、ルーカスくんっ 早く戻っておいで。ケーキ切り分けちゃうよ〜」


少し離れたところからそんな叫び声が聞こえてきた。







丘を下りて戻ってきた二人の少年たちは声の主の元へと駆け寄っていく。


小さな噴水のある庭に囲まれた茶色い煉瓦造りの大きな屋敷の門の前に、一人の青年が立っていた。
少し癖のついた金色の髪を後ろで一つに束ね、正装とおぼしきコートローブを羽織った身なりのよい騎士風の青年の姿。
その隣には魔道士のローブに身を包み、濃い紫色の髪を結い上げた青年が並んでいる。

そしてその間から、ひょっこりと顔を覗かせたリシュカと同じ年頃の風色の髪の少年がこちらに手を振っていた。








「……スノークリスタルだねぇ。道理で寒いわけだよ」

灰銀色の空を仰ぎ、金色の髪の青年は呟いた。






シャン、シャン、シャンと鈴の鳴る音がする。


街の中央にある広場には各地から聖夜祭を堪能しようと沢山の人が集まり、夜店に立ち寄る人々を街全体を覆い尽くすほどのイルミネーションが様々な色で照らしだしていた。

繁華街に見るネオンの明かりのように、いつまでも明るい街に透明な結晶の華が降り注ぐ。









聖夜祭の夜に美しき夢を――。

イルミネーションの明かりを見つめながら少年は屋敷の中へと戻って行った。



灰銀色の空から舞い落ちた小さな雪の結晶たちが、世界を白銀に染める聖なる夜に願いを込めて。



“Happy Merry X'mas”

“来年もまた、よい年でありますように”

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