星の時計台 | ナノ
Mental Panic〜お返しどうする?〜1


シャーロム帝国ゲシュタット城内・第一図書館――。


天井までびっしりと分厚い装丁の本が詰まった本棚の前で、癖のある濃い青い髪の少年は頭を悩ませていた。
薄暗い部屋の中でもぼんやりと浮かぶシンプルな装飾のローブをまとい、両腕には今にも崩れ落ちてしまいそうなほどの辞書並の本を数冊抱えている。

どうやらバラバラになったこの部屋の魔道書などを整理している様子である。
だが、それよりも何か考え事をしているらしく全くと言っていいほど作業が進んではいなかった。


「うぅ〜ん…」

右へふらふら、左へよろよろ。
少年は本をその腕に抱えたまま時折首を傾げたり、かけている瓶底のような眼鏡を押し上げてみたりして、どうにも落ち着かないように見受けられた。


「どうしたら良いのでしょう? こんなことは初めてと言うか、久しぶりと言うか……」

少年は口元でぶつぶつと独り言をぼやきながら何やらそわそわとしていた。








「……何を一人でぶつぶつ言ってんだよ、リシュカ? 独り言にしちゃ声デカイぞ」


「ふぇっ!? あっ、」


唐突に名前を呼ばれ、はたと背後を振り返ろうとした時――





ガタンッ


ドサバサバサッ



ドカ、

バサーッ






突拍子もなく響いた大きな音と共に抱えていた本を取り落とし、更には奥の棚にぶつかってしまったのか、せっかく整理し終わっていた本が大量に棚の中から崩れ落ちてきたのだった。


「ああぁっ!?」


リシュカと呼ばれた青い髪の少年は、そんな叫び声をあげながらそのまま落ちてきた本の山に埋没してしまった。







「おい、リシュカ? 大丈夫かよ!?」

音と声に驚いて入口の棚の陰から姿を現したのは、黒い髪と紫暗の瞳を持つ同年代の少年であった。




「はうっ た、助けてくださ……シーナさぁんっ」

声をかけてきた黒い髪の少年の名を叫び、リシュカは情けない声を上げていた。










「ううっ す、すいませ……助かりました……」

しばらくして、本の山の中からシーナによってリシュカは引っ張り出された。

近くの事務机に座り、謝罪とお礼を述べながら外れかけていた眼鏡をかけ直す。




「まったく、何やってんだか。考え事しながら魔道書の整理なんかしてんなよ……セオールにまた刻まれちまうぞ?」

シーナは大きくため息をついてやれやれと肩を竦めていた。










「で、何を唸ってたんだ?」

それから少ししてからおもむろにシーナは尋ねかける。




「はあ。その……先月、あゆさんと姫様と……エルミナさんにですね、チョコレートを頂きまして……」

ゆっくりと話しながらリシュカは陶器のポットから紅茶を注ぎ、向かいに座るシーナにティーカップを差し出した。

「あぁ。そういやぁ 俺も貰ったな、チョコレート」

ぼそりと呟き差し出されたカップを受け取ると、一口だけ紅茶を口に含んだ。



「そうなんですよ! 義理とは言え、お返しをしなきゃならないでしょう?
あんまり久しぶりなものですから、何を返せばいいものかと……」

はふっと大袈裟までなため息をつき、リシュカは再び頭を悩ませる羽目に陥ってしまった。そんな青髪の少年の様子をしばしの間シーナは観察する。

(そこまで悩むことか? 義理だって分かってんだから、手っ取り早く飴とかクッキーとかでいいんじゃねぇのかな……)

机に置かれた小さめのカゴに入れられていたミルクを一つ取り、単純にそんなことを思いながらシーナはカップに注がれた紅茶にそれを混ぜ込んだ。










「シーナさん――‥紅茶にミルクを入れるなんて邪道ですよ? 普通はストレートでしょ」

何気ないシーナのその行為に、リシュカは突然変なタイミングでそんなことをボソリと呟く。



「……って、そんなこたぁ 今は関係ねぇダロッ!」

シーナは頭を抱え、思わずそうツッコミをしてしまった。



そんな半ば噛み合っていない漫才と呼べるのかわからないような二人の少年のやり取りは、この後しばらく続くのだが……







「よし、ちょっと付き合え。城下に行くぞ」

そんなシーナの一言で、わけもわからずリシュカはそのまま外へ連れ出されることになったのだった。

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