Cross feeling1
機械的な町並みに冷たい風が吹きすさぶ。
月明かりすらも掻き消してしまう程の真っ暗な闇の中で浮かび上がるのは、淡い水色の髪とあまりに青白く見える肌の色を持つ少年の姿。
刹那、
遠目からでは少女のようにしか見えない魔道士風のローブをまとった少年の横を荒んだ風が吹き抜けて行った。
「――‥」
乱れるローブを抑えることもなく、ただ無言で一点を見つめる。
風にさらされバサバサとたなびくその音が、暗い闇の中で虚しく響いていた。
「随分と無防備だな」
ふいにそんな声が聞こえて、少年はゆっくりと背後を振り返った。
そこに佇んでいたのは長身の騎士風の男――茶色の短髪を風に揺らし、長めの前髪から覗く切れ長の瞳の色は血のように赤かった。
「……何か用か、暗殺者(アサシン)風情が」
冷たい眼差しを浮かべ、少年は記憶に新しく見覚えのあるその男に、淡泊にそう尋ねた。
「ふん。相変わらず生意気な小僧だな……目上の人間に対する態度がなっていない。シャーロムの王子は部下にどんな教育をしているんだ?」
クッと小さく笑い、男はブーツのヒールで灰色の床を鳴らした。
だが、近付いてくる男に対して身構える様子もなく、少年はじっと男の赤い瞳の奥を見据えていた。
「俺の名は、ルノアール=エレンツ……知っての通りロザリオ様の部下であり、お前の主君の命を狙う者」
名を明かしながら男はゆっくりとこちらへと歩いてきていた。
「シャーロムの……」
「セオール=アークエイルだ。貴様の名前などに興味はないが……そちらが名を明かすのならば、こちらも名乗るのが礼儀。用件は何だ?」
自分を固有名詞で呼ぼうとした男の言葉を遮り、セオールは自らも簡単な自己紹介を交えて再びそう尋ねかけた。
「……ほう? 流石、優秀だと言われているユリシスの魔道士。あの王子は……環境だけではなく、部下にも恵まれているのだな」
瞳を伏せそう呟いたルノアールと名乗る男の言葉は軽く何かを羨むような言動とも取れたが、その様子をセオールは怪訝な表情をして彼の動向に視線を泳がせた。
荒んだ風が吹き抜ける中、無造作にたなびく男のマントと少年のローブが闇夜に舞う。
「お前とは、いつか決着をつけたいところだが……」
「何が言いたい?」
自らの真横に移動し歩みを止めたルノアールに、セオールはまた尋ねかけた。
「――‥主君を思う心は同じ、と言うことだ」
自嘲するように笑いそう答える男の赤い瞳が、一瞬だけ暗い影を落とした気がした。