真夜中


バーナビーはマーベリックととある製薬会社の社長と会食をすることになっていた。
ヒーローTVの打ち上げからを抜けてきたマーベリックと落ち合い、二人で屋上のレストランへと向かう。

「今日はヒーローTVやヒーロー関係者の貸切なんですよね?」
「ああ、そのはずだが…。何かあったのかね?」
「あ、いや…少年を見まして…」
「少年?」
「はい」
「スタッフじゃないのかね?」

エレベーターで乗り合わせた黒髪の少年。バーナビーは打ち上げ前に出会った彼を思い返した。
マーベリックは流れるように表示される階数を見ながらバーナビーに言った。

「いや、打ち上げ会場のフロアではないところに止まったので、気になっただけです。関係者の家族かもしれませんし…それより、これから会う方はどういった関係なんですか?」

エレベーターが屋上で止まり、マーベリック、バーナビーの順で降りる。
ホテル全体を貸し切ってるせいかいつもより人が少なかった。

「製薬会社の社長だよ。若いのになかなかのやり手でね。来季からヒーローTVのスポンサーなんだ。一時期はお前のスポンサーになるかもしれないって所までいったんだが」
「そうなんですか?」
「あぁ、でも来季から始まる2部ヒーローのスポンサーになるらしい。」
「それは残念です」

2部ヒーローが新しい試みとして始まる事はバーナビーも聞いていた。期待の新人で注目まちがいなしな自分に出資せず、2部なんてその日活躍出来るかわからない、テレビに映るかもわからないヒーローに出資するなんて余程の変わり者だと思うと同時に、そこまでさせたヒーローとは一体どういう奴だろうとバーナビーは思った。

「まあ、スポンサーには変わらないからな。失礼のないように頼むよ」
「勿論ですよ」

二人が案内された先にはもう客人は席についていた。
型に決まりきった挨拶をし、コース料理が運ばれてくる。

「いやあ、テレビで見た時もかっこいいと思ってたけど実物はオーラがすごいね」

男は楽しそうにワインを飲んでバーナビーに言った。やり手と聞いていたから気難しく厳しい人物かと思っていたが実際会って喋ってみると気さくで話しやすい人物だった。
しかし、どこかそれがわざとらしく感じてしまうのは、彼がお酒をのんで少し酔っているせいだろうか。

「そんな褒めたって、何もでないですよ。クリスさん僕じゃなくて別のヒーローのスポンサーになるんですよね?だまされません」

冗談ぽくかつ本音を混ぜてみる、すると男は含んだ笑いをしワイングラスをテーブルに置いた。

「いやー、彼の能力とかに惹かれてね。決定打には欠けるけど、1部も狙えると思うんだ。でもやっぱりヒーローはお金が掛かるからね。僕の助けで彼が立派なヒーローになれるならってね」
「おお、君がそこまで云うとは。思いがけないところにライバルができたな、バーナビー」
「そうですね、是非一緒にこの街を守りたいです」

仕事じみた会話も少なく食事はお開きとなった。
マーベリックを呼んでおいたタクシーに乗せ見送る。

「今日は楽しい食事をありがとう。是非また」
「こちらこそ。今度はそのヒーローさんも一緒にお食事出来たらいいですね」
「それはいいね。伝えておくよ」

男は秘書の運転する車に乗って去っていった。
バーナビーはこれからどうするかを考える。時刻はもう1時ホテルに戻って眠りにつくか、バーでもう少し飲むか…。その時後ろから誰かがぶつかって来た。

「っあ、すみません!!よそ見して、て…あっ」
「いや、大丈夫…あなたは」

ぶつかってきたのはエレベーターであった少年だった。しかし様子が違う、ストレートな黒髪は水に濡れているし、服もズボンにシャツだけでカーディガンを丸めるように手に持っていた。まだ寒いのにこの格好いくらなんでもおかしい。しかも少年の目には涙が溜まっており頬には涙の跡があった。

「…っ!!」
「あ、ちょっと!」

少年は走って夜の街へと消えていった。
バナービーは伸ばした手をポケットに戻し、ホテルへと戻った。




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