再会


その後石像の事件はワイルドタイガーの機転もあり無事に解決した。後半は混乱を収めるのに必死で緊張を感じることも無かった。

「お疲れ様、アタシらも解散するわよ」

ファイヤーエンブレムの声を皮切りに解散していく。和希は辺りをキョロキョロと周囲を見渡した。イワン…折紙サイクロンの影を探すが見当たらない。さっきまでヒーロー達の後ろで見切れていたはずなのだが見付けることが出来なかった。

ヒーロー、ヒーローにインタビューするメディア、警察、野次馬、じっくり見回す。すると、1人の少女と目があった。その少女は和希と目が合うと雑踏の中へ消えて行こうとする。和希は急いで追い掛けた。

「おい!和希、お前どこ行くんだ…っ」
「すみませんバイソンさん!帰りは自力で帰ります!」

ロックバイソンの返事も聞かず逃げる少女を見失わないように走る。普段は人通りが多い通りなのだが、今はみんな避難しており誰も居ない。

「待て!」

徐々に少女に追い付く、ついに肩に手をかけた。

「捕まえた…っ、逃げんなよ…はぁっ」
「な、なんですか?」

息を切らしながら言うと少女は怯えた様子で捕まれた肩を振りほどこうとする。

「イワン…っ?なんで逃げんの?」
「っ…」

名前を呼ぶと少女は目を見開き抵抗を止めた。和希は大きく深呼吸して息を整える。

「もしかして、僕が誰か解んない…?それとも忘れちゃった…?」

そんなはずない。この少女は自分と目が合うと反らして逃げたんだ。

「忘れるわけ、ないじゃん…!」

目の前には擬態を解いた折紙サイクロンがいた。和希の目に涙が滲む。

「良かった!」
「っ本当に、和希なの?」
「そうだよ!イワン会いたかった!イワン!イワン!」
「ちょちょっと!あんまり本名で呼ばないで!」
「あ、ごめっ」

慌てて口元を抑え辺りを見回す。誰も居ないことを確認し安堵のため息を吐いた。




「ていうか、和希ヒーローになったの?」

ジャスティスタワーに向かう折紙サイクロンのトランスポーターでヒーロースーツを脱いだイワンは開口一番そう言った。

「うん!まあ2部だけど」
「2部?」

やはりヒーローには伝わってないらしい、和希はイワンに自分の立場を端的に説明した。

「2部リーグになったら、真っ先に僕が2部に降格だあ…」

青ざめて頭を抱えるイワンを見て和希は苦笑いした。

「イワン変わってないね、もう何年も経つけど」
「どうせ僕はネガティブだよ…」
「いや、凄い嬉しい」

笑顔で言うとイワンは頭を抱えた手を顔面に持っていき顔を伏せた。

「なんで、照れてるの?」
「なんとなくでござる…」
「そっか」

和希は帽子とマスクを外した。イワンは指の隙間から和希を見ていたがマスクを持った和希の腕を掴み挙げる。急なことに和希は驚きイワンを見た。

「な、なに!?」
「っていうか、和希何このヒーロースーツ!顔ほぼ出てるじゃん!」
「仕方ないよ、僕だってイワンみたいなヒーロースーツが良かったけど…」
「…」
「似合わない、かな」

パオリンやアントニオには好評だったが、同い年の友人にはやはりイカサママジシャンに見えるのだろうか。自分でもあまり気に入ってはいないし、顔が出ているのは落ち着かないがいざイワンにそれを言われるとなると少し傷付く。

「いや、かっこいいけど…」
「ほんと?」
「うん」
「でも、マスク外れないように気をつけてね」
「そうだね。バーナビーさんくらい綺麗な顔してたら出すけど、僕みたいなのじゃ駄目だ」

そうだ、パオリンは僕をキレイといったけどキレイというのはああいう人の為に使うべき言葉だ。

「和希も変わってないね」
「え?そうかな」
「解ってないところが変わってない、かな?」
「???」

イワンの言ったことがいまいち理解出来ず首を傾げるがイワンはどういう意味か教えることはなかった。ただ、細められたアメジストがあまりに綺麗で和希はそれを懐かしく嬉しく思う。

「イワンも綺麗だね」
「えっ」
「なんてね」

おどけるとイワンはもうと頬を膨らました。何も変わってない、学生時代に戻ったように錯覚する。

「あ、もうすぐ着くよ」
「イワンはトレセン寄らない?」

和希の言葉にイワンは気まずい感じで視線を反らした。こういうところも学生時代と一緒だ。

「イワンってトレセンあんま来ないんだってね」
「う…」
「ミーティングくらいしか来ないとか」
「うう…」

イワンの背中がどんどん丸くなっていく。和希は小さくため息を吐いた。

「見切れの分際で、あそこでトレーニングするのが」
「そんなことない!」
「でも」
「でもじゃない!」
「うう、だって」
「だってじゃない!」

このやり取りも学生時代何度も交わしたやり取りだ。イワンは眉を下げる。

「僕がいるからいいじゃん」
「…うん」
「来てね、時間ある時でいいから」
「…うん」
「アントニオさんとか心配してたよ?」
「…はい」

すっかり小さくなったイワンだが和希は母親のように説いた。それの間もなくトランスポーターがジャスティスタワーの関係者出入口近くに停まる。

「じゃあ、またねイワン」
「う、うん!またね!あ、メール!メールする!」
「了解!」

手を降ってトランスポーターを降りた。和希は着替えるべく男子更衣室へ向かった。




やっとイワンと一緒にヒーローとして活躍できる。昔交わした約束、それだけを守るために生きてきた。
数年ぶりに会ったというのにイワンは全然変わって居なかった。少し身長は伸びていたようだが、それは和希だって同じことだ。

和希はヒーロースーツから着替えて、トレーニングセンターの戸締まりをした。今日アントニオのドリンクを作る時に気付いたのだがイワンのドリンクボトルが見当たらなかった、いつ来ても良いように買わないと。そう思いながら更衣室へ向かった。

ロッカーからバッグを取り出そうとして、バッグの底で携帯が光っているのに気付く─メールだ。


メールを開き和希の表情が曇る。そうだ、すっかり忘れていた。浮かれていた。


本文:

初出動お疲れ様。
20:00 ●●ホテル XXX号室



携帯をポケットに入れ和希はジャスティスタワーを後にした。


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