初出動



「おはよう和希さん!」

トレーニングセンターで洗濯機を回していたらパオリンが声をかけてきた。
トレーニングウェアを着てないってことは今来たのだろうか。朝から元気だなあと感心し和希も笑顔で答える。

「ホァンさん、おはようございます」
「やだなーパオリンでいいよ!年上だし」
「じゃあ僕の事も和希って呼んで」
「え?いいの?」

年下でもヒーローとしては先輩であるし、何よりその方が親しみが持てる。

「うん、そう呼んでくれると嬉しい」
「っわかった!じゃあ和希って呼ぶ」

パオリンは恥ずかしそうに顔を赤らめて頷いた。そして着替える為に女子更衣室へと消えた。

洗濯をしてる間に窓を開けて換気しているとアントニオもやって来た。
軽く挨拶を交わし、今度はドリンクの準備をしようとパオリンとアントニオのボトルをだした。

午前中はほとんどこの二人らしい。ネイサンは仕事に目処がついたら、キースは取材や撮影などの合間を縫って来るらしい。

昼食時には3人でランチを食べた。こういう風に誰かと食事をともにするのはアカデミー以来でとても楽しかった。

昼食を取り終わり、パオリンは午後からテレビの取材があるらしくその場で解散した。

トレーニングセンターに戻り、和希はアントニオに新しいドリンクを作るべくドリンクボトルを手にとる。

昨日の話だとイワンは滅多に来ない、バーナビーは今シーズンからだからいずれ来るかもしれない。あとワイルドタイガー。小さい頃の憧れだから会えるといいなあなんて事を考えてると手首に巻かれたPDAが鳴り響いた。

「…っ」

驚き思わずドリンクボトルを落とす。

出動要請から告げられる事件内容と現場を聞きながらヒーロースーツを取りにロッカーへ向かう。

「おい!和希聞いたか!?」

アントニオに呼び止められる。和希は慌てて答える。

「聞きました!石像が暴れてるとか」
「お前トランスポーターないんだろ!?俺んところに乗っていけ!」
「ありがとうございます!」

急いでスーツが入ったアタッシュケースを持ってアントニオの後に続く。初めての出動がこんなに早く訪れるとは和希は気を引き締めた。


現場へと向かうトランスポーターで和希はヒーロースーツへと着替える。昨日着たお陰ですんなりと着る事が出来た。ファントムマスクを付けてハットを被る。
着るのは二回目だが今回は本番だ。緊張で手袋をはめた手に汗がにじむのを感じる。

「着替え終わったか」
「はい」
「いいヒーロースーツだな」
「頂いたんです、スポンサーさんから」

現場へと向かう車内で和希はふと社長の事を思い出した。

「へえ、フリーだけどスポンサーがついてんのか。んで和希のヒーローネームはなんだ?」
「へ?」
「ヒーローネームだよ。まさか現場で和希って呼ぶわけにも行かないだろ?」

和希はアントニオの最もな意見を聞いてそういえば自分にはヒーローネームがない事に気付いた。
どうしよう。いやでも自分は2部ヒーローでランキングには反映されないからそんなに支障はないのかもしれない。

「無いですね…」
「ええ!?」
「アントニオさん付けて下さい!」
「な、何言ってんだ!俺はお前の能力も何も知らないんだぞ!」

アントニオは狼狽えた。

「フィーリングでいいです!」
「あ…う…」

真剣な眼差しで見つめられアントニオは段々と恥ずかしくなる。ファントムマスクで顔が半分隠れていても美形だと解る。いやスーツが和希の危うさを含んだ色気を増長させている気すらした。

「ファ…」
「?」
「とりあえずファントムって呼ぶ」
「ファントム?ファントムマスクだからですか?」
「ああ…」
「安直ですね」
「お前がフィーリングで良いって言ったんだろ!」

クスクス笑う和希にからかわれた気がしてムスっとするアントニオに和希はすみませんと笑いながら謝られた。

「冗談です、嬉しいですよ」
「お、おう」

こいつはとんでもない人タラシだなとアントニオは心の中でため息を吐いた。

『ロックバイソン、和希聴こえるかしら?』

二人へアニエスから通信が入る。

「はい聴こえます」
『石像へはスカイハイ、ファイヤーエンブレムが向かっているわ。まずは避難指示をお願い』
「了解」
『あなた達が到着したら中継はいるわよ』

アニエスの通信が終わり和希は一つ息を吐いた。

「緊張してんのか」
「当たり前じゃないですか」
「落ち着いてやれば大丈夫さ」
「だから今こうやって必死に落ち着けているんです」

そんなやり取りをしているうちにトランスポーターは現場へと到着した。扉が開かれ外に出た。

そこには沢山の逃げ惑う人がいた。車を置いて逃げ出す人、車道を横切る人や、落とした荷物もそのままに走る人、パニック状態というのがふさわしかった。

通信が入る。アニエスからだ。

『ボンジュールヒーロー!今日もよろしく』




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