自己紹介


ジャスティスタワーに入り、受付の人に話かける。名前を告げるとすんなりと案内された。ヒーロー専用のトレーニングセンターとは、さすがだ。ヒーロー課の人に挨拶してマニュアルを渡される。

さっと目を通すが要は雑用だ。スポーツドリンクを用意したいウェア、タオルを洗ったり。マネージャーみたいなものだと和希は思った。

そして、いよいよトレーニングセンターへと向かう。心細かったが一人で行くように言われたら仕方ない。フロア案内を見てトレーニングセンターの場所を確認した。

「緊張する…」

イワンの顔は知っているけど、他のヒーローは素顔を公開してるバーナビーさんくらいしか知らない。楽しみだ、スカイハイとかどんな人なんだろう…。

いよいよ、トレーニングの自動扉の前に立った。

中に入ると数人がこちらを見る。少したじろいだが、一人がこちらに向かって歩いてきた。
随分としっかりした体型だ、和希とは随分身長差がある。

「お、お前が例のスタッフか?」
「あ、はい!そうです!」
「おー、よろしく。俺はアントニオ。ヒーローネームはロックバイソンだ」


和希はアントニオが差し出してきた手を両手で握り返した。ずっとテレビで見てきたヒーローが目の前にいることが嬉しくて堪らなかった。

アントニオが他のヒーロー達を呼び寄せそこから自己紹介が始まる。

「初めまして、カリーナ・ライルよ」
「ブルーローズですか?!」
「ええ、そうよ。よろしく」

素顔のカリーナはブルーローズのクールなイメージと少し違ってもっと若く感じた。すると横にいた少女が今度は手を差し伸べてくる。

「僕はホァン・パオリン!ドラゴンキッドだよ」
「おお!カンフーマスター!」
「そ!!よろしく!」

人懐こい笑顔に和希はほっとする。可愛い妹がいたらきっとこんな感じだ。

「私はネイサン・シーモアよ。ヒーローネームはファイヤーエンブレム、よろしくねン」
「よろしくお願いしま…っひ!」

握手しようとしたらお尻を捕まれて思わず固まる。アントニオが慌てて引き離すがネイサンは和希にウインクした。

「こんなに可愛い子がスタッフだなんて嬉しいわあ」
「お前だからって尻は触るな!」
「あらやだ、焼きもちなの?」
「違う!おい触るなっ」

ファイヤーエンブレムはやはりそういう人なのかと和希は二人のやり取りを苦笑いで見ていた。他のヒーローにとっては日常茶飯事なのか、特に止めることもせず自己紹介は続く。

「やあ!私の名前はキース・グッドマン。スカイハイという名でヒーローをしている」
「キングオブヒーロー…!」
「ははっよろしく!そしてよろしく!」
「こっこちらこそ!」

キングオブヒーロー、このシュテルンビルドの守護神を目の前にして和希は感激していた。
グッドマンの名にふさわしい好青年なキースに和希は握手をする。

「今日ここにいる皆の紹介は終わりかな?それでは今度は君の紹介だ」
「はい!今日からこのトレーニングセンターのスタッフをさせて頂きます。高村和希といいます。よろしくお願いいたします」

深々と一礼するとまた改めてよろしくと返ってきた。みんなヒーローなだけあって優しそうな人ばかりなようで和希は内心ほっとしていた。

「あら?高村和希。あなたの紹介すべきことはそれだけではないでしょ?」

入り口付近から聞こえた声に和希は振り返る。そこにはスーツを着たグラマラスな女性が立っていた。

「こんにちは、ヒーローTVのプロデューサーのアニエス・ジュベールよ」
「こ、こんにちは」
「どうしてアニエスさんがここに?」
「本当よ、珍しいわねえ」

「司法局に用事があってね。それとこれを、渡しに」

アニエスはニヤリと笑うと和希の手に白地に黒い縁のブレスレットのようなものを置いた。
それを見たカリーナが驚いてアニエスに問いかける。

「ちょっとこれPDAじゃない!?どうして和希に?」
「えっ?和希ヒーローなの?」
「お前ネクストなのか!」
「おかしい、今期からの新ヒーローはバーナビー君だけだと聞いて居たが」

各々疑問をアニエスにぶつけるが、アニエスは妖しく笑い和希を見た。

「和希には2部ヒーローとして活動して貰うの」
「2部?そんな話聞いてないわよ」
「えぇ、まだ実験段階だから。企画が固まったら来期から本格的に2部リーグを始めようと思ってて。という訳で彼にPDAの使い方を誰か教えて頂戴ね」

そういうとアニエスは颯爽とトレーニングセンターを後にした。和希は渡されたPDAを腕に着ける。

「待って。ヒーローなのになんでトレーニングセンターのスタッフなのよ」
「あ、僕フリーなんで働かないといけないんです」
「えっ?なんかそれ大変ね…」
「頑張りますのでよろしくお願いいたします!」
「いやあ!仲間が増えて嬉しい!とても嬉しい!」

自己紹介や挨拶が終わり、皆それぞれトレーニングに戻った。和希はドリンクボトルの置場所や作り方などをメモしながら覚えた。

「なんだお前、折紙と知り合いなのか?」

アントニオが休憩のついでにPDAの使い方を教えてもらってる時に和希はイワンのことについて訊ねた。トレーニングセンターに行ったら会えると思っていただけに気になって訊いてしまったのだ。

「は、はい。もう何年も連絡してないんですけど…」
「そっか。あいつにも友達がいたんだな…。いや悪い意味じゃなくあいつ人を避けてるように見える時があるっていうか…」
「そうなんですか?」
「あぁ、トレーニングセンターにも滅多にこないな。ミーティングとかそういう時くらいだ」

やっぱり、エドワードの事がイワンの心の傷になっているんだろうか。和希の知ってるイワンは大人しかったが人を避けるとまではいってなかった。数年と言えどもお互い変わっているのかもしれない。

「まあ、これからは何度か会う機会はあるしそんときにでも連絡先交換すればいいさ」
「そうですよね!ありがとうございます」

今日は皆取材や用事があるらしく、5時を過ぎたらトレーニングセンターには和希だけとなった。
戸締まり確認をしてトレーニングセンターの鍵をかける。
ふと左手首に巻かれたPDAが目に入る。

明日からこれが和希の日常となるのだ。


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