昔話



イワンと出会ったのはヒーローアカデミーの入学式だった。

ヒーローアカデミーは普通の学校と違って様々な年齢な人が入学する。ネクスト能力に目覚めている事が条件だからだ。幼いうちから能力に目覚めていてもだいたいは高校や大学を卒業して入学してくる。

だから、和希は珍らしく周囲から浮いていた。入学生が並んでいる筈だが皆自分よりは4、5歳は上に見えたし、自分の母よりも上に見える人だっていた。

校長の挨拶が終わり、新入生はクラスへと戻っていく。和希は人の流れに逆らうことなく足を進めた。友人が出来るのか、ちゃんとやっていけるのか色々な不安が和希の歩みを遅くする。すると、春風が見覚えのある花びらを運んできた。ひらひらと舞う薄桃のその花びらは自分の生まれ育った国の代表するものだ。

「あ…桜だ」

和希は立ち止まって渡り廊下から中庭の桜を見た。

自分がネクストと解ってから母と二人でこのシュテルンビルドにやって来た。もう思い出の中にしか咲かない花との再会、それは和希を勇気付けるものだった。

「高村くん…!」

桜に気をとられて肩を叩かれた。
見るとプラチナブロンドの少年が自分の目の前に立っていた。

「へっ?僕?」
「あ…っも、もうみんな教室はいってるよ…?」
「えっ?あぁ!ごめんぼーっとしてて…えーっと…」

このプラチナブロンド少年は和希の名前を知っているようだが、和希は心当たりが無かった。
恐らく同じ新入生、背格好からして同世代か。凄い美少年だと和希は思っていた。

「イワン…。イワン・カレリン」
「イワン…覚えた。ありがとう!僕は高村和希よろしくね」

それがイワンとの出会いだった。
同世代という事もあって入学から1ヶ月もしない間にイワン、イワンと寮が同室のエドワードと仲良くなった。
ヒーロー像について、自分のネクスト能力をどう活かすか、話題には尽きなかった。

本当に幸せな時間。

和希は中退、そしてしばらくしてからのエドワードの事件をニュースで目にした。ヒーローになれたのはイワンだけだった。

約束をあいつだけが叶えた。
僕も叶えたい。

あの時間だけが、和希にとって唯一輝いた思い出で全てだった。

モノレールがジャスティスタワーの最寄り駅に着く。人通りの多さに圧倒されたが、目の前にそびえ立つビルへと向かう。

「でか…」




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