04

あれからバーナビーさんはお店に来なくなった。と言っても2週間くらいなのだがバー話すようになって数日に1回は来ていたのにと考え込んだが、所詮僕とバーナビーさんは店員とお客様で他に接点がないのだ。
仕事が忙しいのかもしれないし、恋人との時間もあるはずたがらとあまり考えないようにした。

今日は嵐が来てるらしく空は灰色の重たい雲に覆われていた。ただでさえ最近気分が沈んでいるのにもっと気分が下がってしまう。
そんなことを思いながらお店に行くと電気が消えている。不思議に思いスタッフルームに行くとマスターの奥さんが新聞を読んで座っていた。

「おかみさん今日お店開けないんですか?」
「夜から嵐が来るからね。ちょっと嵐に備えたいから手伝ってくれる?」
「はい、大丈夫ですよ」

二人で、店の外にあるプランターや看板、酒瓶等を店内に入れて窓に板を打ち付ける。3時間程の作業でなんとか終わりイワンはスタッフルームへと戻った。その瞬間コーヒーの匂いが鼻腔をくすぐる。

「ありがとうね。助かったわ」
「いえ。あのマスターは?」
「あの人は家の窓の補修よ。古い家はこれだから困るわ…」

マスターの家はお店の裏にある。お店と同じくらい古くて威厳のある家で、確かにあれは嵐が来たら大変そうだと思いながらコーヒーに口を付けた。

「嵐についての情報が知りたいのに、連続殺人事件のことばかり…。どうなってるのよ」

おかみさんはそう言いながらチャンネルを変える。しかし、その変えた番組も連続殺人事件の事を報道していた。まだこの街を騒がせているのかと驚いたし、未だ捕まらない犯人に警察は何をしているんだろうと呆れてしまう。しかし、テレビに映った写真を見て僕は思わず声をあげた。

「えっ」
「どうしたの?」
「この人…」

見たことある、この人。そう、以前バーナビーさんと一緒にお店に来た人だ。美しいプラチナブロンドと青い目はすごく印象に残っている。アナウンサーは新しい被害者と言ってるが、この人が新しい被害者なのか??

「あらやだ、知ってる人??」
「い、いや。気のせいみたいです…」

そうであって欲しい。僕が見たのは数分だったし、間違いかもしれない。似ている人その可能性もある。

「あらそう。本当美人ばかり被害に遭ってて怖いわね。イワンくんも気をつけて」
「な…。ぼ、僕は男なんで大丈夫ですよ…」
「気をつけるには越したことないわよ。殺人鬼にも嵐にも」
「そ…ですね」

こういう時気の利いた事言えない僕は、はははと空笑いでその場をやり過ごす。このままだとらちが明かない。とおかみさんはテレビを消して僕のマグカップを下げようとしたので片付けは僕がしますといいおかみさんから鍵を預かった。

洗ったマグカップを戸棚に戻し、スタッフルームの鍵を掛ける。お店の周りを確認してシャッターを閉めた。外は来た時よりも雲が厚くなっていて風も出ており、酷い嵐にならなければいいなと思いながら振り向くとバーナビーさんがが立っていた。

「イワンさん…」

久しぶりに見たバーナビーさんは顔色が悪くて、ああやっぱりあの事件の被害者はバーナビーさんの恋人で間違いないのか。とどこか冷静に考えていた。

「ごめんなさい。今日はお店、嵐で休業なんです…」
「そうですか…残念です」
「あ、あのニュース見ました…本当なんていっていいか…」
「…」
「犯人、早く捕まるといいですね」

他人ごとのような口ぶりだ。でも本当他に言葉が浮かばなくて、なんと言っていいか分からなくてニュースキャスターが事件の報道のあとに必ず言うような言葉を言ってしまった。僕は下げた視線を上げてバーナビーさんを見上げる。

「警察に…」
「…?」
「警察に遺体の確認で呼ばれたんです。…そのあとずっと事情聴取されて…」
「そんな…」

それが警察の努めだとしても愛した人を亡くしたばかりのバーナビーさんには辛いことだったろう。

「やっとさっき家に帰っていいと言われて、でもイワンさんに会いたくて…気が付いたらここに来たんです…。休業は残念ですけど、仕方ないですね」
「…すみません」
「いいんです。こうしてこんなタイミングよくイワンさんに会えただけでも」

今までの完璧な微笑みとは違う、少し陰りのある微笑みに僕の胸が傷んだ。引き返そうとするバーナビーさんの背中に気がついたら声をかけていた。

「あっ、あの。もし良ければ。僕の家に来てお話しませんか…?」
「えっ…」

驚いた表情を浮かべるバーナビーさんに自分は何を言ってるんだろうと少し後悔する。しかし、今のバーナビーさんを一人にするのは嫌だったし何か僕に今できることと考えたら声に出ていた。

「僕で良ければ、お話聞きます…」
「…ありがとうございます」

とうとう重たい雲から雨が降り出してきたので、僕は慌ててバーナビーさんを家に案内した。

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