02

こうも毎日が単調だと日付や曜日の感覚なんてなくなってしまう。きっと働いてなかったら時間の感覚もなくなってしまうんだろうな。
このバイトをはじめてから午前中に起きることなんて殆ど無いが昨日バイトが早く終わったせいか珍しく午前中に起きてしまった。11時は僕にとっては朝に近い。二度寝をするか一瞬迷ったけど、時間が気になってきっと満足に寝れないだろうからベッドから起き上がることにした。ぼーっとする頭を起こすべく洗面所へと向かう。そうだ今日は洗濯をしよう、本当は休日にする予定だったけど今日は天気もいいし何よりそういう気分だ。休日も早起きするわけではないし、いつもと違う事をすると少しだけ満足感が得られる。まあ、たかが洗濯なんだけど。

洗濯機を回している間僕は朝ごはん兼昼ごはんを食べながら昨日録画しておいた時代劇を見る。うーんやっぱりかっこいい。日本は僕のふるさととシュテルンビルドよりも遠い。いつか行ってみたけど、このかつかつな生活じゃあ当分は無理だな。この前時代劇のBlu-rayを全部揃えてしまったせいで今月の食費さえヤバいんだ。半額のお弁当しか買えない。

本当僕の人生はいつもギリギリだ、そのくせ平坦。僕のせいかもしれないけどやっぱりため息が出てしまう。僕が時代劇の人物だったら懲らしめる人が僕の生活を楽にしてくれるだろうか。いや、僕の場合悪い人がいないから素通りで終わるだろうな。僕の困ってるはそういうレベルではないから。それよりも「コレニテイッケンラクチャク」ってどういう意味なんだろう。


だらだらとした時間を過ごし洗濯をベランダに干し、僕は食料や水を買いに出かけた。いつも買ってる水がすごい安くて2本買ったけどこれを歩いて持って帰るの大変だって買ってから気づいた。よく考えばわかるはずなのに、ついついテンションが上がってやってしまった。食料も買うために遠出してしまったし、天気がいいからと歩いて出かけたのを後悔する。まあ、買ったものは仕方ないと水2本その他食料が入ったビニール袋を両手に持ち、店から出て家に帰ろうととぼとぼ歩き始める。車道を渡ろうと止まっていたら、高そうなスポーツカーが目の前に止まった。行く手を阻まれてちょっとパニックになる僕に聞き覚えのある声がかけられる。

「こんにちは」
「えっ、あっバーナビーさん…」

開けられた窓からニッコリ笑うバーナビーさんに僕は驚いて挙動不審になる。何故こんな昼間にこんなところにいるのだろう。というか何故声を。

「買い物帰りですか??」
「はい。えと…バーナビーさんはお仕事中ですか?」
「そうです。今から会社に戻るところです。…凄い荷物ですね、良かったら送っていきますよ」
「えっ?あっ…い、いや!大丈夫です!」

あまりにスマートなので僕は一瞬何を言われたのかは解らなかった。両手が塞がれているため首を大きく横に振る。

「そんな事言わずに、乗って下さい」
「あ、でも…歩いて15分くらいなんで、すぐちょっとなんで大丈夫ですっ」
「じゃあ、車だともっと早くつきますね。さあ、どうぞ」

有無も言わせない笑顔に押されて僕は渋々ドアを開けた。押しにはめっぽう弱いのだ。シュテルンビルドに来たばっかりの時に出会った押し売りを思い出す。人の善意を押し売りに例えるなんて失礼極まりないけど。僕は挙動不審になりながら買い物袋を抱えるように助手席に座った。数年経っても僕はやっぱりノーと言えないのだ。

僕がシートベルトを締めるのを確認してバーナビーさんはアクセルを踏んだ。

「お家はどこですか?」
「お、お店の隣のアパートです」
「了解です」

車内は無言だった。だって、僕はバーナビーさんの事を全然知らないし、バーナビーさんも僕の事はお酒を買う店で働いている店員くらいの認識なはずだ。名前も知らないと思う。
よくこんなよくわからない人を車で送ってあげようと思ったなあと思った。僕みたいなコミュ障にはとてもできない事だ。やはりハンサムだと必然的に人が寄ってきてコミュニティ能力が長けてくるんだろうか。ちらりとその綺麗な横顔を盗み見たら宝石のような緑色の目と合ってしまった。ニコっと微笑まれ僕は慌てて目を反らす。
これ以上こんなキラキラした人のそばに居たら僕の精神衛生上良くない気がする。眩しい。心臓がドキドキしていた。

「あっ、ここでいいです!」

お店の前にいつの間にか差し掛かってて僕は車を止めてもらう。シートベルトを外し荷物を持ちなおした。

「本当にお店の近くなんですね」
「はい…。お仕事中なのにすみません送っていただいてありがとうございます…。助かりました」
「どういたしまして。また近々お店に寄りますね」
「あっはい!お待ちしてます」
「それじゃあ」

僕は何度も頭を下げて真っ赤なスポーツカーを見送った。



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