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都会ぐらしに憧れて、シュテルンビルドにやってたのは数年前。田舎者な僕は右も左もわからなくて、一人暮らしを始めた頃は毎日泣いていた。それでも故郷に帰るのは嫌で、意地になって働いた。
今では、僕の当時の思いや涙は枯れてしまいただ毎日を惰性で生きている。


「いつものロゼを一つ」
「はい」

シュテルンビルドにある小さな酒屋が僕が働く店である。口下手でバイトを転々としていたのだが、ここの店は働きだして長い。

酒屋とバーを兼ねたこの店は古く、常連の客が多い。地元で作られた酒や海外の酒まで扱っているので、知る人ぞ知る店らしい。
そして、このロゼを頼んだ人も半年前からこの店によく訪れる。

名前はバーナビーさん。大企業で働いているらしく、いつも高そうなスーツに身を包んでいる。最初見た時は芸能人かと思ったくらい綺麗な人だ。
僕の憧れの人である。

「へえ、こんなところでいつもお酒買ってるんだ」

会計をしていたら、またもや芸能人と見間違う程の綺麗な女の人が入って来た。いらっしゃいませと言う前にその女の人はバーナビーさんに腕を絡める。僕は一瞬びっくりしたが、二人が気にしている様子はない。

「車で待ってて下さいって言ったでしょう?」
「だって、この通り薄暗くて。バーナビーも知ってるでしょ?連続殺人事件」

連続殺人事件、ここ最近シュテルンビルドで騒がれてる事件だ。
事件にはまだ謎が多く警察が必死で犯人を探している。しかし、有力な手懸かりすら未だに見つかっていないらしい。被害者はみんな若い女性ばかりで死体から大量の血が抜かれている、という猟奇的な事件にシュテルンビルドのワイドショーは毎日特集を組んでいる。

「もし私が車で待ってて拐われたらどうするのよ危ないじゃない。ねえ?」
「あ、っはい!そ…ですね…」

急に話題を振られたじろぐ僕に女の人はふふっと妖しく笑っていた。接客には慣れたがこういう時はどうしていいのか解らない。何せ生まれてこの方彼女が出来たことなどないのだ
。僕は俯きながらバーナビーさんにお釣りを渡した。

「ほら、あまり困らせないで。…すみません」
「い、いえ」

バーナビーさんに寄り掛かるように歩く女の人が店を出る前にひらりと手を振る。慌てて頭を下げて僕は一つため息を吐いた。

僕と全然違うバーナビーさんは憧れでもあるけど、会うと必ず劣等感に苛まれてしまう。


この日はお客さんも少なく、僕は予定時刻より2時間早くバイトを上がった。僕の住む家は酒屋の隣にあるアパートだ。管理人さんは酒屋のマスターで、家賃収入で主に生活してて酒屋自体は趣味らしい。このアパートは酒屋を建てると同時にからあるから古いのだけど、最近また高層のマンションを建てたとか言っていた。お金はある所にはあるものなのだ、僕には全く回ってこないだけで。

だがしかし、マスターにはアパートも格安の家賃にしてもらい、バイトもさせてもらっているから感謝しても足りないほどで、僕の人生の中でマスターと出会ったことはかなりの幸運である。都心からは離れてるといえど、憧れのゴールドステージにすんでいるのだから。

「ただいま…」

玄関のドアを開けて電気をつける、家具は殆ど無い。つい最近マスターから使わなくなったといって薄型テレビを貰った。お陰で最近のマイブームは深夜に放送されてる日本の時代劇のドラマを見ることだ。日本の時代劇はストーリーがわかりやくて好きだ。困ってる人と悪い人と懲らしめる人、主にこの3つの役が物語を進めていく。最期には必ず悪い奴はやっつけられるというワンパターンさが安心して見ることができていい。でも今日はいつもより早くバイトが終わったためまだ時代劇まで大分時間があった。
僕はこの時間テレビでどんな番組があるのかよくわからないため適当にチャンネルを変えていく。

「ニュースばっか…」

僕は仕方なく適当なニュース番組に変えた所でリモコンを起き、お弁当を温めるためにキッチンへと向かった。冷蔵庫から水を取り出しグラスに注ぎお弁当が温まるまでキッチンからテレビを見る。前の小さなテレビでは出来ないことだ。
ニュースはあまり見ないのだが、世間はやはり連続殺人事件で持ちきりだ。吸血鬼の仕業ではないかという人間まで現れているのか、オカルト研究家というなんとも胡散臭い肩書きの胡散臭い人間が胡散臭いことを話している。真剣な顔でアナウンサーは相槌をうっているが本当に吸血鬼なんて思ってるわけないだろう。どちらも滑稽だ。

暖めたお弁当とグラスをテーブルに起き、僕はチャンネルを変えた。食事中に見るものではない。

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