好きってなあに?

タイガー&バーナビーはバーナビーがKOHになってから人気に拍車がかかっている。そんな二人に明日は密着取材があると聞いたのは昨夜の事だった。密着取材でトレーニングセンターにもカメラが入るから他のヒーローは気を付けろという内容のそれに人気ヒーローは凄いなあとイワンは思った。明日はイワンは出動要請がない限りオフなのであまり関係ないが、大変なんだろうなあ。そんな事を考えながらトレーニングセンターに向かっていたらその人気ヒーロー二人に拉致られてトレーニングセンターに隣接したミーティングルームへと連れてこられた。

右腕を虎徹、左腕をバーナビーに完全ホールドされた状態で椅子に強引に座らされる。その荒っぽい行動に何か悪いことをしたのかと不安になりながら前を見ると目の前にも虎徹とバーナビーが立っていた。

「へ…っ?」

じゃあ自分の腕を掴み肩を押さえ付けてるのは誰だ?虎徹とバーナビーじゃないのかと左右を見る。
間違いない、虎徹とバーナビーだ。

「えっ…何?分身の術でござるか…?」

四人いる。右に虎徹、目の前にも虎徹、左にバーナビー、目の前にもバーナビー。イワンは混乱してキョロキョロと四人を見る。
そんな折紙を見て目の前の二人が話し出す。

「折紙すげーパニくってるぞ?」
「まあ…仕方ないですよ。大丈夫ですか?先輩」
「タイガーさんとバーナビーさん…が二人ずつ…?え…?」
「折紙、びっくりするかもしれないけどよく聞いてくれな?」

そう言って虎徹は混乱するイワンに説明を始めた。



「アンドロイド…ですか」
「そ!よく出来てるだろう?」
「はい、見た目は本当に人間と変わりませんね!すごい…」

虎徹達と並ぶ虎徹達にそっくりなアンドロイドを見比べてイワンは感嘆の声をあげた。多少肌の色や目の色は違うは他は全く一緒だ。
虎徹モデルのアンドロイドは虎徹より若干肌が黒く、バーナビーモデルのアンドロイドは目が赤い。しかも両者とも表情は無表情に近かった。

「でも、あんな誘拐みたいな…怖かったですよ…」
「それは本当にすみません。僕達はただ折紙先輩を連れて来るように言ったんですけど…」
「なんかまだ人間性は低いらしいんだよ」
「まだってことは開発段階ってことですか?」

虎徹が自分に似たアンドロイドの頭を撫でる。しかし、それにアンドロイドの方は気にする様子もなく人形のように無表情だった。

「このアンドロイドには学習機能が付いてるんですよ」
「学習機能?」
「そうです、人間と話したり生活して人間の行動パターンを学びます。そう意味ではまだまだ開発段階ですね」
「はー、凄いですね…」
「そこでな、折紙お前にお願いがあるんだ」

今までのは前置きに過ぎなかったらしく、虎徹が言いにくそうに頬を掻く。お願いとはなんだ?とイワンは虎徹が口を開くのを待った。

「お前明日オフだろ?ちょっとこいつら預かっててくれない?」
「えっ!?」
「頼む!この通りだ!」
「ええ?!」

両手を合わせ拝まれればまた混乱し始めたイワンに今度はバーナビーが口を開いた。
どうやらアンドロイドはそれぞれ虎徹、バーナビーと一緒に暮らしていたらしいのだがそれが今度ある密着取材で家に置いておくわけにもいかずイワンに取材が終わるまで預かってて欲しいという内容だった。

「む、無理です…!」
「頼む…お前しか頼めないんだよ…!ブルーローズやドラゴンキッドは保護者が居るし、ロックバイソンは部屋が狭くなるから嫌だって言われるし…」
「スカイハイさんのおうちは広いじゃないですか…」
「犬にぼろぼろにされると駄目だって斎藤さんに止められたんです」
「じ、じゃあファイヤーさん…」
「あいつんところに預けたらこいつら無事に帰ってくると思うか?色んな意味で」
「…ははは」

確かに普段からスキンシップが多いファイヤーに預けたら、アンドロイドといえど危ないかもしれないとイワンは考え苦笑いした。

「先輩、もう先輩しか頼る人いないんですお願いします」

頭を下げる二人の頼みを断れる訳などなくイワンは渋々二人のお願いを了承した。




「預かると言ったものの…」

イワンは自宅に居る二人を見てため息を吐いた。玄関を土足で上がろうとするのを慌てて止めて靴を脱いで上がらせる。畳に座らせて5分ほどすれば沈黙に耐えれなくなったイワンが虎徹とバーナビーそっくりなアンドロイドに話かけた。

「あっそうだ…、お二人とも名前は?」
「名前?」
「タイガーさん…えっと虎徹さんになんて呼ばれてます」
「クロだ」
「クロさん…」

虎徹より色黒だからだろうか、虎徹らしい安直な名前だ。虎徹の明るい印象とは真逆で落ち着いて居るのでなんだか不思議な感覚だ。

「じゃあ、あなたは?」
「H-02です」
「え、そうやってバーナビーさんに呼ばれているんですか?」
「はい」

こちらも彼らしいというか…。しかしそれだと味気ない。虎徹達にはただ預かるんじゃなくて人間らしさも教えてやってくれと言われていた。名前は大事だ。

「じゃあ、シロさんで!H-02じゃなくてシロさんって呼びますね!良いですか?」
「解りました」

きっとバーナビーが聞いたら眉間にシワを寄せて不満を表すだろうがシロはこくりと頷いた。バーナビーにはない素直さにイワンは失礼ながら少し感動を覚えた。

「俺達はなんて呼べば良いんだ?」
「あ、そうですね。え…と、ぃ、イワンって呼んで下さい」
「イワン、了解した」
「解りましたイワン」

名前を呼ばれてイワンは少し気恥ずかしくなる。友達の少なさもあってイワンの事名前で呼ぶ人間はごく僅かだ。

「それじゃあクロさんシロさん今日と明日よろしくお願いしますね」

彼らは人間ではないが、滅多に来ない来客にイワンはテンションが上がっているのを感じた。


自己紹介も終わり、イワンは晩御飯の準備を始めた。アンドロイドの彼らは食事は必要としないらしい。ちょっとだけ残念な気持ちではあるが、具材の下ごしらえを進めていく。

「イワン手伝うぞ」
「えっ、いやいいですよ!座ってて下さい!」
「虎徹のメシの準備も手伝っているから、ある程度出来る。遠慮しないでくれ」
「あ、う…じゃ、じゃあジャガイモの皮剥きをお願いします」
「了解した」

包丁を渡すのは怖くてピーラーとジャガイモを数個渡すと、クロは手慣れた手つきで皮を剥いていく。イワンはそれを見てこれも学習機能の賜物なのかと考えながら鍋に水を張って火にかけた。
普段は自分しか立たないキッチンにもう一人しかも仕事仲間である虎徹にそっくりなアンドロイドと並んでいる。何だか不思議な空間だった。
料理は慣れているのに緊張してしまう。

「そういえば、シロさんは何してるんですかね」
「あいつなら、本棚にあった本を読んでいる」

クロは作業を中断することなくイワンの問いかけに答える。

「本?あぁ、漫画ですね」
「あいつは家でもいつも本とかテレビを見ているらしい」
「へえ、好きなんですね。クロさんは何が好きですか?」
「好き…?“好き”は俺はまだ解らない」

クロの言葉に虎徹の「人間性はまだ低い」という言葉を思い出した。イワンは好きという人間として自然に湧く感情の説明に言葉が詰まった。

「例えば、タイガーさんはマヨネーズよく使いますよね」
「ああ、食べる物ほとんどに使うな」
「タイガーさんはマヨネーズが好きなんですよ」
「なるほど、それが“好き”というものか」
「平たく言えば、ですけどね。…す、好きには、色々種類があります」
「それは少し知ってる“LIKE”や“LOVE”だろ?」
「そ、そうですねっ」

この手の話題は苦手で普段の生活でも避けていた為改めて問われると恥ずかしくて赤くなってしまう。イワンは誤魔化すようにコンロで鯖を焼く準備を始めた。

「えっと…魚は皮から焼くんだっけ?」
「イワン」
「はい!なんでしょうか!」
「皮剥けたぞ」
「あ、ありがとうございます!」

赤面してるのが気まずくて、返事の声も大きくなる。クロからジャガイモの入ったボールを受け取るとジッとこちらを見ていることに気付いた。人と目を合わすことが苦手なイワンはそのまま固まってしまう。

「な、んでしょう、か」
「イワン風邪をひいているのか?」
「えっ?」
「顔が赤い」
「え、ちょ…」

前髪をかき分けられ、余計に顔が赤くなるのを感じた。そして、クロの顔がどんどん近付いて来る。


(あ。クロさんの瞳、この前見かけた猫の目と一緒だ。

というか顔、近い。)


「──っ」
「36度4分。イワン普段の体温は何度だ?」

キスをされると思ったら額にクロの額が充てられただけだった。おでこで体温を計ることができるなんてアンドロイドって凄い。とイワンは思いながらばくばくと心拍数が上がっていくのを感じる。

「風邪じゃな…っふが」

抗議しようと口を開けば、素早い動きで口の中に指を突っ込まれる。左手で開けられたまま固定され右手の人差し指と中指で舌を押さえつけられる。あまりの出来事にイワンはジャガイモの入ったボールを落としてしまった。コロコロとジャガイモが四方に転がった。

「喉は腫れていない…。風邪ではないようだ」
「だからっ、風邪じゃないって言ってる…!っひゃ」

二度目の抗議もまたクロの素早い動きによって止められた。タンクトップの裾を捲られ胸に手を宛てられたのだ。アンドロイド独特の人間よりも幾分か低いひんやりとした手が素肌に触れてイワンの体が微かに震える。

「ちょ、ちょ…っ、ちょっと!クロさんっ!?」
「心拍数はかなり速いが、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫っ!大丈夫ですからぁっ!…ぁんっ」

イワンの三度目の猛抗議にクロは納得はいってないようでしぶしぶ手を離す。その時クロの指がイワンの乳首を掠めた。色を含んだ声にイワンは慌てて口を両手で塞ぐ。

「イワンさんクロ、何か騒がしいけど何かあったのですか?」

居間で違和感を感じたシロがキッチンを覗き込み二人を見て首を傾げた。タンクトップを捲られ、涙目になっているイワンとクロ。

「うわあああああっ」
「あ、イワン何処に…」

クロの呼び止めを聞かず、イワンは両手で顔を覆いながらキッチンを飛び出して行った。

「クロ、イワンさんとセックスしようかしたんですか?」
「セックス?なんだそれは」
「生殖行為です。好きな人に好きって伝えるためにしたりします」
「シロの言葉は難しくて解らない」

残された二人はキッチンを転がるジャガイモを拾い。家主の帰宅を待った。





『お、折紙!どうだ仲良くやれてるか?』
「もうお嫁に行けないでござるよおおお!」
『はあ!?』


[comment]
TOP