教えて教えて!

今日は朝から取材と撮影が入っていた。人と話をするのは好きだし、メディアはスカイハイとファンを繋ぐ大事なものだからスケジュールが許す限り請けるようにしている。しかし今日に限っては今すぐ終わらせたいそんな事を思っていた。いやいや、私はヒーローなんだそんな私情を優先させたいなんて思ってはいけない、いけないとわかってはいたが何処か落ち着かなかった。

結局取材と撮影は3時間かかった。いつもなら昼食をとってからトレーニングセンターに向かうところだが今日は直接向かうことにする。


「やあタイガーくん、バーナビーくん」
「おースカイハイ」
「スカイハイさん、今来たんですか?お疲れ様です」

ロッカールームにはタイガー君とバーナビー君が居た。私服に着替えてるということは今からランチなのか本当に仲良しだ二人は。そんな事を思っているとバーナビー君が眼鏡をカチャリと上げながら私に向き直った。

「折り鶴どうでしたか?」

ああ、折紙君と話が出来た嬉しさですっかり忘れていた。そういえば昨日の出来事はバーナビー君の一言から始まったのだ。

「折ったよ」
「見せて下さい」
「おい、それ今やるか?俺もう腹へってやばいんだけど」
「丁度良いじゃないですか、このランチを掛ければ」

愚問だ。とでも言いたげなバーナビー君にタイガー君は空腹を訴えているらしいお腹を慰めるように手をあてため息を吐いた。

「じゃあスカイハイさん見せて下さい」
「あぁ、そうしたいのは山々なんだが…」
「どうかしましたか?」
「私は持ってないんだ。多分折紙君が持っていると思う」
「先輩が?」

確か完成して折り鶴達を風で舞い上がらせてしまったのを折紙くんが慌てて回収していたから間違いないはずだ。バーナビー君に無言で頷くと彼は眉間にシワを寄せため息を吐く。人にため息を吐かれるとこんなに悲しい気持ちになるのか、これを毎日経験してるタイガー君を少し気の毒に思った。

「困りましたね、折紙先輩は今日はまだ来てないんです」
「よし、じゃあ決着は折紙が来てから、そして晩飯なり明日の昼飯にするなりしようぜ。な、スカイハイ!」
「ああ、私はかまわないよ」

タイガー君は早くランチに行きたいのだろう、私の賛同を得てバーナビー君の方を見た。バーナビー君はまだ納得はしていないようだけど「仕方ないですね…」としぶしぶ了承した。 それを聞いてタイガー君が安堵の表情を浮かべる。
その瞬間だった。ロッカールームの扉が開き見慣れた人影が目に入る。自分より5センチしか変わらないらしいが猫背の彼はもっと小さく見える、華奢だからというのもあるのだろうが。
当の折紙君はみんなからの視線を受けている事に驚きドアを開けこちらを見たまま固まっている。

「え…ぁ、お、おはようございます…?」
「先輩!丁度いいところに!昨日スカイハイさんが折り鶴見せてもらっていいですか?」
「あっはい!折り鶴ですね…!」

バーナビー君の言葉に頷くとロッカーの鍵を開け折紙と折り鶴が入っているであろう小さな紙袋を取り出した。袋に手を入れ空色の折り鶴がバーナビー君に手渡される。それを見てバーナビー君もタイガー君も困った顔になった。ロッカールームのベンチにバーナビー君のと二つ並べてみたのだがその2つは同一人物が折ったのかと思うほど不恰好なのだ。折った自分でも相手より上手いと思えないしかと言って相手が自分より上手いとは思えない。

「これは…」
「引き分けだな」
「いやー、バーナビー君とは本当に良いライバルだね」

そう笑いながら言うと、またバーナビー君はため息を吐いた。本日二回目。

「今回は私の負けで構わないよ!ランチは私がご馳走しよう。タイガー君と折紙君の分も」
「おー!まじか!?」

タイガー君の表情が一気に明るくなる。折紙君は焦ったように何かを言いたげだった。

「折紙君どうかしたのかい?」
「あ、僕はいいです…!」
「なにいってるんですか、先輩も行きますよ。遠慮なんてしなくていいんです」

半ば強引に折紙君も連れてランチに行く事になった。


ランチを食べて再びトレーニングセンターへと戻る。そこにはブルーローズ君がストレッチしていた。

「やあ、ブルーローズ君」
「スカイハイ今からトレーニング?」
「ああ、折紙君達とランチにいっててね」
「折紙と?スカイハイ昨日は折紙とは挨拶を交わすくらいだって言ってたじゃない」

ブルーローズ君は驚いたようにこちらを見た。

「そうなんだ。昨日あの後ちょっと話してね。色々教えてもらったんだ」
「それで、なんで元気がないかは聞けたの?」
「それは…まだだ」

ただの寝不足でそれはいつものことだと教えてもらった。私が訊ねた時少し表情が翳ったのを思い出す。

「今日もう一度訊いてみるよ」

ブルーローズ君の頼みというより私自身も気になる。彼女はそんな私に頷きストレッチを再開させた。

私もトレーニングをしよう。まずはランニングマシーンからだ、と振り返るとそこには折紙君がいた。向こうも私に話を掛けようとしていたのか手が伸ばされてまま固まっている。

「どうかしたのかい?」
「あっ、あの、お昼ご馳走になりましたって言えなかったので…」
「ああ、いいんだよ!バーナビー君との約束だったし、折紙君には折り鶴の折り方を教えてもらったしね」

折紙君は話す時、目を泳がせる。ランチの時に気付いたのだが、特に私と話す時視線が合うことは少なかった。少し、いやかなり悲しい。もっと自然に沢山話がしたい。

「そういえば、昨日の約束は覚えてるかい?」
「折紙の折り方を教える…でしたよね」
「そう!私は今日それが楽しみで何時もより早く起きてしまったんだ!」

子供みたいなだと笑われそうだが、折紙君は驚いた表情をしていた。意外と思われたのだろうか。

「っぼ、僕も楽しみにしてました…!」

折紙君は顔を僅かに赤くして俯く。何故かつられて私も赤くなってしまった。

「よ、よし!じゃあとりあえず時間までトレーニングだ!そして、トレーニングだ!」
「そ、そうですね!」

そうして私は今度こそランニングマシーンへと向かいトレーニングを開始した。

折紙君は今日は何を教えてくれるんだろう。私は紙飛行機くらいしか折ったことないから、考えるだけでわくわくする。折るのはあまり向いてないことがわかったから簡単な物からスタートするのかも。そういえば、折り鶴は折紙の中での難易度はどのくらいなのだろうか。後で折紙君に訊いてみることにしよう。そういえば、無事教えて貰うことになったが、何処で教えて貰おうか。昨日はトレーニングセンターで折ったけどここはトレーニングをするところだし時間が来たら閉まってしまう。他のお店で折紙を広げるのは行儀が悪い気がするしどうしたものか。…そうだ家に招こう。そうすればゆっくり出来るし時間に捕らわれることはない。上手くいけば折紙君の寝不足の原因だって聞けるかもしれない。そうしよう。我ながら良い案だ。
私はこの後のことに思いを馳せながらトレーニングをもくもくとこなした。

「なぁに?スカイハイったら今日はやけに張り切ってるじゃない」

ランニングマシーンでのトレーニングを終え休憩していたらファイヤー君から声を掛けられた。

「今日折紙君から折紙の折り方を教えて貰う約束をしてるんだ!」
「あら?あんた達ってそんなに仲良かったの?」

ファイヤー君は私の横に座る。やっぱり他の人から見ても私と折紙君は意外な組み合わせらしい。

「昨日折紙君に折り鶴を教えてもらってそれがきっかけかな?」

いや、でもその前にブルーローズ君との事もきっかけかもしれない。しかし、それを言うと色々長くなりそうなのでやめた。

「…私は折紙君に嫌われてると思ってたんだ」
「あら?どうして?」
「折紙君がヒーローになって随分経つけど、挨拶くらいしか交わしてなくて話しかけてもすぐ謝って何処かにいってしまうし…」

だから、こんな風に折紙を教えてもらったりするなんて想像出来なかった。

「そんなの、恥ずかしがってただけよ」
「そうかな?」
「そうよ。だってあなたは折紙が来た時からずっとKOHなんだもの。折紙にとっては、仕事仲間というより憧れのヒーローなままなのよ」

ふふ、と微笑むファイヤー君。その視線の先にはトレーニングに励む折紙君がいた。

「…それは、複雑だな」
「複雑って?」
「私はもっと折紙君と仲良くなりたいけど、彼はKOH…スカイハイとしか私を見てないのだろうか?」
「それは嫌なの?」
「嫌ではないよ!嬉しい!そして嬉しい!…けど」
「けどなあに?」
「少し、少しだけ寂しいんだ」

他の人には時々見せる困ったような笑顔。控えめなその笑顔を私は見たことない。いつも横目で見るばかりで、それを見るともやもやと言い様のない気持ちになるのだ。

「へぇ…スカイハイ、あんたも人間だったのね」
「えっ?」
「安心したわ。あんた完璧だからそういう人間くさいところもっと出した方が良いわよ」

そういうとファイヤー君はウインクをして立ち上がった。
どうやらファイヤー君にはこの私の寂しさやもやもやの正体に心当たりがあるらしい。

「そしたら折紙とも仲良くなれるわ」
「そうかな?」
「そうよ」
「そうかじゃあ頑張るよ!」
「うふふ、応援してるわ」

確かにファイヤー君の言う通りかもしれない。
トレーニングに戻るため立ち上がる。体も休まったしファイヤー君に話して胸のつっかえが取れた気がした。

早くトレーニングを終わらせよう。なんだが今日は時間が経つのが遅い気がする。
これは早起きをしたせいだろうか。




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