教えて教えて!

「折紙君の様子がおかしい?」

今日はブルーローズ君と二人で雑誌の対談があった。遅めのランチを二人で取ることになり、案内された席に座る。一息吐くや否やブルーローズ君が口を開いた。「折紙の様子が最近おかしい」と。

ブルーローズ君と折紙君は年が近いせいか仲が良い。よくキッド君の三人でいる所をトレーニングセンターでも目撃している。年少組が集まって談笑している様はとても和やかで癒される。そんな折紙君が元気がないとはどういうことだろう。私は水とメニューを持ってきた店員にお礼を言いながら彼女の言葉に耳を傾けた。

「元気が無いっていうか、ぼーっとしてるの。目の下にクマも出来てるし、いつか倒れるんじゃないかしら」
「それはいけない、いけないな」

「そうでしょ?どうかしたの?って訊いても、何でもない。ちょっと寝不足なだけ。って何も教えてくれないのよ」

メニューを見ながら話を続けるブルーローズ君に私は苦笑いした。女の子は同時に平行して行動が出来ると思う。彼女がメニューを見て何を食べるか考えながら折紙君の話をしているように。
私は彼女の話を聞くのでいっぱいいっぱいでメニューの一番最初のページを開いただけだった。

「挙げ句ローズには関係ないって言ったのよアイツ!そりゃちょっとしつこかったのかも知れないけど、こっちは心配して言ってるのに」
「はは…」

その時の事を思い出したのかブルーローズ君の語気が荒くなった。この年頃の子みんなこんな感じなのだろうか、自分はこの性格だからそんな事はなかった気がする。折紙君もとても大人しい子でこんな感情的に話す所はあまり見たことない。やはりブルーローズ君が特別なのかと私の思考は違う事を考え始めていた。

「スカイハイ決まった?」
「あ、ああ、決まった。決まったよ」

迫力に負けて決まってないのに頷く。これでちょっと待ってくれと言ったら「早く決めてよ!」と怒られそうだ。年下だがしっかりしたブルーローズ君は年上など関係なく接してくる。ワイルド君などのベテランヒーローにも物怖じしない所を最初見たときは凄い子が来たと感心したものだ。
もしかして、折紙君はこの気迫に負けて言いたかった事を飲み込んだんじゃないだろうか。あり得る。そんな事を考えているとブルーローズ君が呼んだ店員がオーダーを伺いに来ていて結局急かされてしまった。

「なんかスカイハイもぼーっとしてない?」
「そんな事ない!そんな事ないよ!」
「まあ、いいけど…。とにかく、ちょっと折紙に声掛けてくれない?」
「私がかい?」
「そ。私じゃ折紙びびらすだけみたいだから」

なんだ解っていたのか。とは口が裂けても言えない。いくら空気が読めないと普段言われても容易に氷浸けにされてしまう事を予測できた。

「いや、でも私よりワイルド君の方が向いてると思うのだが」
「タイガー?なんで?」

折紙君の友人の事件以来折紙君はワイルド君になついている。一方私は折紙君と挨拶や事務的な会話しかしたことがない。たいして仲良くない私になんで元気がないのか教えてくれるだろうか?

「私と折紙君は挨拶を交わす程度の仲なんだ」

そう、何度も仲良くなろうと話し掛けるもののどうも距離を取られてしまうのだ。一歩進めば、一歩下がられる。そんな感じだ。
しょんぼりしながらブルーローズ君に告げるとブルーローズは驚いた顔でこちらを見ていた。

「嘘でしょ…?折紙いっつもスカイハイの話してるから私てっきり仲が良いかと」
「私の話をかい?」

彼はなんと話していたのだろう。詳しく訊こうとしたら、頼んだ料理が運ばれて来た。お腹が空いていたのかブルーローズ君は私の問いかけに答える事なくフォークとナイフを手に取った。



結局折紙君が私についてどんな事を言っていたかは訊けないままブルーローズ君と別れた。彼女はこの後学校らしく駆け足で人混みに消えていく。

「折紙君が私の話をか…」

嫌われていないようで凄い嬉しいというのが本音だ。では何故あんな──そんな事を考えながらトレーニングセンターへと向かった。



トレーニングセンターにはバーナビー君とワイルド君と折紙君の三人が居た。最近では珍しくない組み合わせだ。ワイルド君の言葉にバーナビー君が呆れた様子でため息を吐く、折紙君はそんな二人を困ったように見ている。
なんだ、元気じゃないか。ブルーローズ君の勘違いか気にしすぎというか。安心したような寂しいような複雑な気持ちになる。いやいや、寂しいだなんて!良かったじゃないか。元気が何よりだ。

「お!スカイハイ!来てたのか」
「やあワイルド君!」
「ちょっとこっちこいよ!」

手招きされて三人の元へ向かう。すると折紙君の手には小さな紙で作られた鳥が3匹乗っていた。

「おや、これは折り鶴だね」
「なあなあ、これどれが一番綺麗に折れてると思う?」

ワイルド君はニヤリと笑いながら訊いてきた。どうやらこの折り鶴は三人が一匹ずつ折ったものらしい。二匹は変わらないくらい綺麗だが、一匹は折り目が沢山ついて少し不恰好だ。私はうーんと悩みながら折紙君をチラ見した。私に見えやすいように両手を差し出している折紙君、その彼の目の下には確かに確かにクマが出来ていた。前髪が影になって解りにくかったがブルーローズ君の言っている事は間違っていなかったのだ。

じーっと折り鶴を見るフリをして、折紙君を見ていると目があってしまった。前髪で隠れ気味の瞳も覗き込むように折り鶴(を見るフリをして折紙君の顔)を見るためはっきりと見える。とても綺麗なアメジストの瞳は私の視線に気付くと一瞬不安気に揺れ反らされてしまった。

「うーん、この黄色のかな?」
「だっ!?まじかよ!じゃあ次は?」
「もういいじゃないですか…」
「次はこっちかな」

私は黄緑色の折り鶴を指すとワイルド君は「やったー!」と喜んだ。どうやら黄緑色の折り鶴はワイルド君が折ったらしい。バーナビー君がため息を吐いた。

「バニーがコーヒーおごりな!」
「何言ってるんですか、僕は今日初めてオリガミをしたんですよ?しかもいつからそんな罰ゲームみたいな…」

じゃあ、この桃色の不恰好な折り鶴がバーナビー君が折ったものか。期待の新人にも苦手な事があったのかと私はその意外さについ笑ってしまった。

「な!今笑いましたね?」
「い、いやそんな事は」
「いいえ、確かに笑いました」
「私はただ仲が良いなあと思って…」
「はあ?何処をどう見たら仲が良いって思うんですか!?」
「おい、落ち着けよバニー…」

ワイルド君が私とバーナビー君の間に割って入る。冷静に考えると元々の原因は彼なのだが、何故だか救世主の様に思えた。

「じゃあ、スカイハイさんも折って下さい。折り鶴」
「え?」
「スカイハイさんも折り鶴を折ってそこから順位を競いましょう」
「おいおい、俺ら今から会社に戻らないと駄目だろ?」
「じゃあ決着は明日で」

ワイルド君の制止も聞かずにバーナビー君は眼鏡をクイッと上げて私に言った。今度はワイルド君が呆れている。折紙君も不安そうに私とバーナビー君を見ていた。

「いいよ」
「おいスカイハイ…」
「一度折り鶴を折って見たかったんだ、構わないさ」
「下手な方がランチを奢るということで」
「わかった」

バーナビー君が満足気に微笑む。ワイルド君は時計を見てバーナビー君を急かした。いつもは逆なのだが、今日は面白いものを見れた。バーナビー君が負けず嫌いとは、クールな印象があったのだが。

「じゃあ、俺ら行くから。あ、折紙!スカイハイに折り鶴教えてやってくれ!頼んだぞ」
「えっ?僕がですか!?」

出口に向かうワイルド君の言葉に驚いた様子で聞き返す折紙君。そういえば、三人の元へ来て折紙君の声を聞くのはこれが初めてじゃないか?そして、挨拶以外では一週間ぶりくらいだ。

「そんな…っ。無理ですよ!」
「何言ってんだー!お前俺より上手く折れてるじゃねえか。じゃ頼むぞー」

手のひらをひらひら振りながらワイルド君達はトレーニングセンターを後にした。あとは私と折紙君だけだ、呆然と出口を見つめるその姿に少し申し訳なくなる。

「巻き込んでしまったね…。すまない」
「あっいえ!そんな事は!」
「折り方教えてもらっていいかな?」
「は、はい。僕で、良ければ…」



こうして、折紙君による折紙教室が始まった。初めに折紙君が一通り折り鶴を折って見せてくれた。一枚の紙が立体になる様は物珍しさも手伝ってとても面白いものだ。そして最初は萎縮していた折紙君も私の反応に気を良くしたのかリラックスした様子で折り方を説明してくれる。

「じゃあ、今度は一緒に折りましょう」

そう言って手のひらくらいの折紙が渡された。綺麗な空色の紙を目の前に置き折紙君のやり方を見ながら折っていく。

「角と角を揃えて、折り目に沿うように折ると綺麗になりますよ」「なるほど…折紙君はとても手先が器用なんだね」
「そ、そんな事ないですよ!これくらい誰だって出来ます…」

少し顔が赤くなる折紙君を見て何だかむず痒い気持ちになった。恥ずかしがる彼はとても可愛いらしいと思う。今なら元気がない理由も聞けるんじゃないのかふとそんな考えが過った。

「折紙くん、目の下にクマがあるけどちゃんと眠ってるかい?」
「へ…っ?」

目の下のクマを親指で撫でながら言うと大きく目が見開かれた。色素が薄くて気付かなかったがかなり睫毛が長い。下睫毛もふさふさと生えていて無意識に親指でその感触を楽しんだ。しかし、それはほんの少しのことで折紙君は立ち上がりそして後退る。すばやい。

「なっなななっ!」
「ああ、すまない!」

せっかく距離が縮まったと思ったのに迂闊な事をしてしまった。謝るとゆっくりとしかしぎこちなく折紙君が席へと戻る。まるで野良猫が人間と距離を図ってるみたいだ。

「寝不足だったらもう今日は帰って休んだ方が良いと思ってね。折り鶴は明日までに折ればいいんだし」
「いや、大丈夫です…。寝不足はいつもの事なので…!つ、続き折りましょう!」

そういうと折紙君は次のステップを折ってくれた。帰るのではなく、私に教えてくれる事を選んでくれたのがとても嬉しい、そして嬉しい。一緒にいることを許された様な気持ちだ。

「後は、ツノの部分を折れば…完成です!」
「出来た!そして完成だ!!」

広げた折り鶴を掲げれば折紙君が小さく拍手をしてくれた。出来上がった折り鶴を見ればバーナビー君とはヒーローとしても手先の器用さを比べても良いライバルになりそうだと我ながら思う出来だった。

「良かったですね!」
「折紙君のおかげだよ!ありがとう!そしてありがとう!」

立ち上がり折紙君の手を両手で握ってぶんぶんと上下に振る。折紙君ははにかみながらそれに答えてくれた。可愛い、とても可愛い!ジョンとはまた違う可愛いさだ!

「今日は素晴らしい日だ!」
「そんな、大げさですよ…」
「いや、そんな事はないさ。折り鶴の折り方をレクチャーしてもらったし、そして何より折紙君とこうして親睦を深める事が出来たからね!嬉しい、そして嬉しい!」
「ぼ、僕も嬉しいです…!」
「本当かい!?」

折紙君は私が嫌いという訳ではないみたいだ!テンションが上がっているのが自分でも解る。これはチャンスだもっと仲良くなるにはどうすればいいんだろうか。

「そうだ!もっと他にも教えてくれないかい?」
「えっ?」
「折紙君が良ければだけど、どうだろう?」
「えっ?そう…ですね。大丈夫ですよ」

私が訊ねると少し困ったように考えたものの了承してくれた。嬉しさのあまり能力を発動させて折り鶴達が宙を舞う。

「じゃあ、明日からよろしく!そしてよろしく!」






[comment]
TOP