原因はあなたです!

「やあ!折紙くんおはよう」

午前中からトレーニングセンターにキースが居るのは珍しい。我がシュテルンビルドのKOHのスケジュールは取材に撮影にイベントに大忙しなのだ。空いてる時間を見つけてはトレーニングセンターに来ているようだがこんな早くいるとは、とイワンは思った。

「おはようございます…」
「君は、いつもこんな早く来てるのかい?」

挨拶だけで済まそうと思ったが、そうはいかないようだ。スカイハイはこちらに近づいてきてどうやら雑談をする気らしい。

「そ…ですね。他にすることないので」
「鍛えることはいい事だよ!最近の折紙くんの活躍は素晴らしいからね!こういう努力家な所を私はとても尊敬している」
「ありがとうございます」

皮肉で返したつもりだが、笑顔で返されてしまい少し肩透かしを食らった気分になる。そのあと、イワンは自分の器の小ささに自己嫌悪し、小さくため息を吐いた。そしてふと我に返る。

「どうしたんだい?ため息なんか吐いて」
「あっいやなんでもないです。すみません、いきなりため息とかついちゃって気にしないで下さい」
「しかし…」
「本当、なんでもないんです。くせ、みたいなもので」

目の前の人は他人のため息を無視するような人ではない。イワンは失敗したと反省した。
ため息を吐くのはイワンの癖のようなものになっている。些細な事で悩み、考えすぎてしまう。後々考えれば大したことなかったと思うのが殆どだが、わかっていても吐いてしまう。

「なるほど!でもため息は幸福が逃げてしまうよ」
「そう…ですね」

キースには悪気はないと理解はできるが、こういうことを言われると卑屈な性格が災いして責められれいる気分になる。吐きたくて吐きたい訳じゃない。だがそんなことも言えない。

「トレーニングしないんですか?」
「ああ!そうだね、せっかく早く来れたし私も折紙くんに負けないようにトレーニングしなくては!」

キースはそういうとイワンから離れてトレーニングを開始した。イワンは今度は安堵のため息を吐く。

「負けてるところなんて一つもないですよ…」

キースといるとどうしても息苦しさを感じてしまう。嫌いではない。憧れであるし尊敬している。しかし、いざ話すと自分の悪い所とキースを比較してしまって落ち込んでしまう。

それは話すようになってからだ。あまりにも不釣り合いで自分でも悲しくなる。なので最近ではレーニングセンターにはキースが来ない午前中にくるようにしていたし、最近では彼の後ろで見切れる事も減っていた。

考えたくない、悲しくなるだけだ。
不安を振り切るようにイワンは集中してトレーニングメニューをこなした。


午前中のトレーニングも終わり、ロッカールームで私服に着替える。
今日はもう本社に戻り内勤をしよう。過去のヒーローTVの映像を見返して見切れの研究するのもいいかも知れない。トレーニングで一汗かいて少しスッキリしたイワンはそんな事を考えていた。

「やあ、折紙くんも今からお昼かい?」
「スカイハイさん…お疲れ様です」

シャワールームから上がったばかりなのか鍛え上げられた上半身には何も着ておらず、黄金色の髪の毛は濡れて色を濃くしていた。
タオルで髪の毛を拭くその仕草すら様になっている。同じ人間で男でヒーローだというのに。

「良かったら一緒に食べに行かないかい?」
「えっ?」
「いやー、今日はもしかしたら一人でランチかと思っていたがラッキーだ!そしてラッキーだ!」

ランチ?KOHと?そんなのハードルが高すぎる。
イワンは断ろうとどもりながら口を開いた。

「あっあの、僕!午後から本社に行かないと行けなくて!それで…!」

行かないといけないいうのは嘘だ。しかし、食事を誘われた経験が少ないイワンは断り方が解らず後に言葉が続かなかった。
着替え終わり、身だしなみを整えるイワンは少し考える素振りを見せるとあぁ。と何かに気付いた様子だった。

自分の足りない言葉で察してくれたのだろうか?イワンは恐る恐る顔を上げた。キースは爽やかな笑顔を浮かべている。

「じゃあ、君の会社の近くで食べよう」
「そう…ですね」

イワンはキースに見えない所で小さくため息を吐いた。



ヘリペリデスファイナンスの近くにある話題のハンバーガーショップでハンバーガーを注文する。昼時で混んでいることもあって、テイクアウトして広場で食べる事にした。

「美味しい!実に美味しい!」
「そうですね」

男二人が並んでベンチに座りハンバーガーにかじりつく様は他人の目からどうなのだろうか。イワンそんな事考えながらドリンクでハンバーガーを流し込んだ。

スカイハイと食事だなんてヒーローになる前には、いやヒーローになった時でも想像つかない事だ。
嬉しいが少し気まずい。

何を話していいか解らないが、沈黙も嫌だ。イワンは何か話題は無いかと思考を巡らせた。
ふと、キースの方を見れば二個目のハンバーガーを頬張る所だった。

「よく食べますね」
「食べる事は体の資本だからね。イワンくんはあまり食べないのかい?」
「どうですかね?普通…かな」

多分人並みに食べるとは思う。アカデミーを卒業して独り暮らしが始まり最初はなれない自炊生活だったが最近ようやく慣れてきた。といってもお弁当や外食の日も少なくはないが。

続かない話をどうにかしないと、とキースを見る。大きな口でハンバーガーを頬張る姿は見てて気持ち良さすら感じた。
こんなところまで自分とは違う。
イワンは3分の1ほど残ったハンバーガーを見つめてまた無意識にため息を吐いた。
なんだか胸がいっぱいになり、これ以上食べる気にならなかった。

「折紙くん体調が悪いのかい?」
「いや、そんなこと」
「全然食事もすすんでないし、何か悩みがあるなら言って欲しい。心配だ、とても」
「あ…」

キースは真剣な目でイワンを見る。晴天の空を映したような、芯のある瞳。イワンは口ごもった。

もしかしたら、スカイハイさんは僕を心配してくれてこの為に昼食に誘ってくれたのかもしれない。
そう思うと申し訳なさでいっぱいになった。

「あー、最近見切れとかあまり上手くいってなくて。ちょっと凹んでるだけですよ」

半分だけ本当の事を告げた。

「それだけ?」
「はい」
「他には?」
「ないですよ?すみません下らないですよね。KOHにこんな小さな悩み…」
「何を言うんだ。君にとっては大きな悩みなんだろう?じゃあ私も一緒に考えよう」

そういうとキースはううん…と唸り考え始めた。

「折紙くんが犯人確保は能力的にも中々難しいし…。そうだ!今度から私が犯人を確保したら折紙くんの近くに行くよ!そうすれば見切れ易くなる!そうだ、そうしよう!」
「いやいやいや!スカイハイさんにKOHにそんな事…恐れおおいですよ」

苦笑いしながらイワンは断った。するとキースは悲しい表情を浮かべる。イワンはギョッとした。

「折紙くん…」
「は、はい!なんですか」
「折紙くんは、もしかして私がスカイハイ、KOHだから折紙くんを心配してると思っているのかい?」
「えっ?」

そうじゃないのか?イワンはそう言いたかったがキースの悲しそうな声色に何も言うことが出来なかった。キースの手に握られたドリンクカップの中の氷がカランと揺れる。

「私はね、キース・グッドマンとして折紙くん…いや、イワンくんのことが心配なんだ…」
「え…」

どういうことだろう。意味が解るようで解らないような。イワンは自分の中でキースの言葉の意味を考えるとあることが浮かんだ。
しかしそれはイワンの都合のいい解釈かもしれない。いやそうだとすぐに蓋をした。

「イワンくんには悲しい顔やため息を吐いて欲しくない…。私がそれを取り除けるなら…なんだってしてあげたい」

真摯な瞳に勘違いしそうになる。
イワンは何か言わなければと思った。しかし、それはキースに手を握られ遮られる。

「君の事が、好きなんだ」

真っ直ぐな青い瞳に自分の狼狽えた顔が見える気がする。イワンはパニックになりながらキースの言葉の意味を考えた。

好き?

スカイハイさんが

僕の事を?

顔に熱が集まるのが解る。きっと、耳まで真っ赤だ。いや全身赤いかもしれない。

「悩んでいるイワンくんにまた困らせる事を言ってるのは解ってる!しかし、言わないと私も…イワンくん?」

イワンは視界が白み、音が遠ざかるのを感じる。

「イワンくん!」

イワンはそのまま気絶した。




─────

難しい!

スカイハイさんに憧れてて話せて嬉しいけど、自分でも恋をしてることに気付かないまま悩むイワンと

イワンが自分の事で悩んでるって気付かないけど心配で勢い余って告白するキースさん。

でした。

すみません本当、気絶させてすみません。

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