王様の憂鬱
対ジェイク戦が終わった後の病室、スカイハイことキース・グッドマンは一つため息を吐いた。
キングオブヒーローそれが自分に与えられた称号だったが、ジェイク戦後のワイドショーやゴシップ誌では不甲斐ない王のバッシングが毎日続いていた。周りのヒーロー達や関係者は気を使ってそれらが目に入らないようにしてくれているようだが、嫌でも目に入るほどバッシングは酷いものだったのだ。
気分転換をしたくても外には出たくない。キースは上体を起こした上体で布団を握りしめる。
すると病室の扉がノックされる、点滴の交換にしてはまだ早い気がする。見舞いだろうかと考えてるうちに扉は開けられた。
「こんにちは、スカイハイさん…」
入って来たのは折紙サイクロンことイワン・カレリンだった。車椅に乗った彼は遠慮がちにこちらを伺う。
「折紙君」
「あ、あの入ってもいいですか?」
「ああ…勿論だよ」
キースは今出来るだけの笑顔を浮かべて応える。本当は人と話すのは億劫だったが、このジェイク戦で一番傷ついたのはイワンだ。わざわざ車椅子を押してここまで来たのだ無下にはできない。
「どうかしたのかい?君が私を訪ねるなんて珍しいじゃないか」
少しトゲのある言い方だったかもしれない。しかし、イワンが自分に話かけたことなんて数回しかない。しかも内容は業務連絡や事務的なものばかりだったので、こうして二人きりで話すのは本当に珍しいことだったのだ。
「あ…っその…、お身体の具合はどうですか…?」
イワンはキースの顔色を伺う様に訊ねた。
「大丈夫だよ。検査の結果次第では明後日には退院できそうだと先生が言っていた」
「そうですか!良かった…」
安堵の表情を浮かべるイワンにキースは胸に小さな罪悪感がよぎった。
「私はキング失格だな…」
「そんなこと…!」
「折紙君に心配をかけてしまって、情けない。実に情けないよ…」
本当はこんな弱音を吐く事すら情けないのかもしれない。
「そんなことないです!スカイハイさんは僕の憧れで…っ強くて、優しくて…」
「ありがとう。でも、私は強くない。ジェイクに負けてしまった…みんなは私に失望しているだろう…。こんなのがキングオブヒーローだったのか、と」
キングオブヒーローと呼ばれて以来、一身にスポットライトと歓声を浴びていた。強い光に周りが見えなくなって最終的には自分すら見失っている。
自分というのがスカイハイを指すのかキース・グッドマンを指すのかも解らない。
皆の期待に応えて愛される完璧なヒーロー。それがスカイハイだった。そうでなければいけなかったのだ。それなのに…。
握っていた布団に力が入る。それを見たイワンは車椅子をもっとキースのベッドに近付いて言った。
「…僕がスカイハイさんに憧れてるのは、キングオブヒーローだからじゃなくて、悪を倒すことよりも困ってる人を助けるヒーローだからです…ってこんな事言われてもだからなんだって思われるかもしれないですけど…」
キースは自分の手元を見つめながら呟く。
「私は…この街を、この街に住む人々を愛しているんだ」
「はい」
「愛しているから守りたい…」
「はい」
「守れるだろうか…?」
ぎりっと握り締められた手にイワンの手が重なる。その手は柔らかくキースの手を包みこんだ。
あたたかい。温もりに自分の心の凍っていた部分が溶けていくを感じた。
「守れます。だって、いままでそうして来たじゃないですか」
イワンは柔らかく微笑む。キースの頬には涙が伝っていた。
そうだ、守りたい。ただそれだけだったのだ。
「折紙君…ありがとう。私は大事なことを忘れていたようだ」
キングだろうが、キングじゃなかろうが自分がすべきことは変わらない。
「君は私のヒーローだね」
暗いところに沈みかけていた自分を救い上げてくれた。
涙を拭きながらそうイワンに告げると驚いて困ったように笑った。
キースはイワンの手を強く握り返す。
「ありがとう。本当にありがとう」
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スカイハイのキングなのにキングに固執してない所が凄い好きです。
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