後片付け


「先輩すみません…後片付け手伝っていただいて」

バーナビーはイワンから重ねた食器を受け取りながら言った。

「いや、こちらこそいきなりお邪魔して…すみません」
「いいんですよ、最近虎鉄さんは僕の家を二次会変わりにするんで慣れました」
「そうなんですか…」

帰りに虎鉄にアントニオ、キースの四人と飲みに誘われたイワンは後ろでべろべろに酔った虎鉄に苦笑する。
キースは最初の店でパトロールがあるから途中で帰った。今は虎鉄はしつこくアントニオに絡んでいる。

バーナビーはシンクに置かれた食器をスポンジを手に取り洗い始めた。

「あ、僕食器拭きます」
「あー、ではお願いします。そこにある布巾使って下さい」

布巾を手に取った時に声がかけられた。

「バーナビー悪いけど虎鉄連れて帰るわ」

アントニオが虎鉄を支えているが虎鉄は足元が覚束ないのかずり落ちそうになっている。

「そうですか、お気をつけて」
「ばかやろお!おれはまだのむ!」
「お前それもう空き瓶だ馬鹿」
「にゃに!?」
「じゃあな、いつも悪ィ…。折紙またな」
「あっ、はい!お疲れ様…です」

アントニオは空いてる手でひらひらと手を振ると虎鉄を引きずりながらバーナビー宅を後にした。

「だ、大丈夫ですかね?」
「いつものことですよ。全く…。ほんとにあの人はだいたい…」
「とっとにかく片付けましょう…!」

これ以上虎鉄の話をさせたらバーナビーの愚痴が加速すると思ったイワンは洗われた食器を布巾で拭く。

「しかし、折紙先輩はお酒も飲まないし、こういう席は苦手かと思ってました」
「う…前は苦手だったんですけど、最近は皆さんの会話とか楽しいので好きです」
「折紙先輩…変わってますね」
「すみません…」

白い大皿をギュッと握りしめながらシュンとなるイワンにバーナビーは苦笑する。

「でも、折紙先輩も行くなら僕も行けばよかったです」
「え?」
「今度どこかご飯食べに行きましょう。二人で」
「えっ…う、二人で、ですか!?」

二人、というのを強調して言うと、イワンは案の定顔を赤くしてどもった。もしタイミングがズレていたらグラスを床に落としていたかもしれない。

「僕なんかと行っても楽しくないですよ…。つまんないです…」
「そんな事ないですよ。僕は先輩に興味がありますから」
「きょっ、興味…?」
「はい」

イワンはバーナビーを見るがバーナビーは依然として食器をあらっているので自分も食器を拭く作業に戻る。
自分だけが意識しているのだと思い知らされまた顔が赤くなるのを感じた。

「あっ」

落ち着こうと食器を拭いていたらバーナビーが洗ってた皿を置いて止まった。

「どうしました?」
「眼鏡に水が…」

そう言われバーナビーの眼鏡を見ると小さな水滴がレンズについていた。

「ちょっと眼鏡取って拭いてもらっていいですか?」
「あ、はい」

言われるがまま布巾と皿を置いてバーナビーの眼鏡を外す。
泡だらけで濡れた手はシンクにおいて上体だけ向けたバーナビーにイワンは問いかけた。

「なにで…拭いたらいいですか?」
「あぁ、そこのキッチンペーパーでいいです」
「…はい」

キッチンペーパーでなるべくレンズを傷つけないよう優しく水滴を取りイワンはバーナビーに眼鏡を返そうとした。

「すみません、かけてもらっていいですか?」
「へ…?あ、はい!」

イワンは眼鏡がバーナビーの顔に当たらないように慎重に耳にかけようとする。

(わ…まつげ凄い長い…)

眼鏡をかけてないバーナビーはとても新鮮でドキッとする。

「どう…ですか?」
「ありがとうございます、助かりました」

そうしてまた皿洗いが再開したのだが、イワンは食器同士があたるカチャカチャという音と鼓動の音がうるさくて集中出来なかった。

「先輩って」
「は、はい!」
「まつげ長いですね」
「へっ?」

一瞬心が読まれたのかと焦ったがそれはイワンがバーナビーに思ったことではなく、バーナビーがイワンに対の言葉だった。

「いつも前髪に隠れて、さっきまで気が付きませんでした。目も紫でアメジスト見たいで綺麗です」
「…っ!」
「…どうしました?」
「バーナビーさんだって…」
「え?僕の目は緑ですよ」
「っちが…!バーナビーさんだって、いやバーナビーさんの方が…綺麗じゃないですか…!」

そういうとまたイワンは顔を赤くした。耳まで赤いに違いないと思った。

「ありがとうございます。でも、個人的にはかっこいいって言われたいですね」
「すみません…」
「いやいや、でも嬉しいです。何食べたいか決めといて下さいね」
「っはい」




──────

なんだろう、これ。
どっちも天然だな

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