06.ガラクタ




「まだまだ使えるじゃないか。どうして人はこんなにすぐに捨てるかねぇ」
 ゴミの山。
 そこは、そう称すのが的確だった。捨てられたもので溢れ返ってた場所だった。
 人は、ここへは何かを捨てる時にしか、誰も寄り付かない。ゴミ捨て場と化していた。
 そんな場所に、一人の老人がいた。
 そこにあるるものをその瞳に映すたび、顔に刻まれた皺が悲しみの色を濃くする。
「おやおや。可愛い人形だね。わしと、一緒に来るかい?」
 視線の先には、人間と同じくらいのサイズの人形。雨風の所為で少しだけ汚れてはいるものの、とても可愛らしい顔だった。
 大きな瞳が、老人を見つめているかように感じられた。
 ――それが、出会いだった。





「マスター、休憩にしてはどうですか?」
 いれたての紅茶をテーブルの上に置く。
 カップは一つ。私の分は必要ない。
「ああ、そうだね。そうしようかねぇ。君も……」
「私は人形ですから、紅茶は飲めません」
 そう言うと、マスターは思い出したかのように、悲しげな表情をした。
 時々、忘れてしまいそうになるそうだ。私が人形だという事を。
 それもそうなのかも知れない。見た目では、私が人形だなんて分からない。飲食が出来ない事と死なない事だけが、その証。
 私を作った人形師と魔術師の仕事は、完璧だった。人形師が、人間と寸分違わない人形を作り、魔術師がそれを動くようにした。そうして出来た人形
 命を与えた、とは私は思わない。私は人形。人間ではない。私はガラクタなのだから。
「その『マスター』という呼び方、何もそんな風に呼ばなくてもいいんだよ?」
「マスターはマスター主人ですから」
 そう、覚えたての笑みを作る。
 人形の私には、人間がどういう風に笑うか、分からなかった。だからマスターの為に覚えた。
 この人が笑ってくれるなら、私はどんな努力もしようと思う。
 ガラクタまみれ、ゴミが掃き捨てられていた場所にいた私を拾ってくれた人。
 もう、誰も私のことなんて必要としないと思っていた。でも、マスターは必要としてくれた。
 だから、私はマスターに尽くすのです。

「マスター」
 私は、ガラクタだった。
 私は、いらないものだから捨てられた。
 マスターも私がいらなくなったら、同じように捨てるかも知れない。
 でも、それまでは――。
「なんだね?」
「ありがとうございます」
 それまでは、貴方が私のマスター





END

2010.3.11

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