「まだまだ使えるじゃないか。どうして人はこんなにすぐに捨てるかねぇ」
ゴミの山。
そこは、そう称すのが的確だった。捨てられたもので溢れ返ってた場所だった。
人は、ここへは何かを捨てる時にしか、誰も寄り付かない。ゴミ捨て場と化していた。
そんな場所に、一人の老人がいた。
そこにあるるものをその瞳に映すたび、顔に刻まれた皺が悲しみの色を濃くする。
「おやおや。可愛い人形だね。わしと、一緒に来るかい?」
視線の先には、人間と同じくらいのサイズの人形。雨風の所為で少しだけ汚れてはいるものの、とても可愛らしい顔だった。
大きな瞳が、老人を見つめているかように感じられた。
――それが、出会いだった。
*
「マスター、休憩にしてはどうですか?」
いれたての紅茶をテーブルの上に置く。
カップは一つ。私の分は必要ない。
「ああ、そうだね。そうしようかねぇ。君も……」
「私は人形ですから、紅茶は飲めません」
そう言うと、マスターは思い出したかのように、悲しげな表情をした。
時々、忘れてしまいそうになるそうだ。私が人形だという事を。
それもそうなのかも知れない。見た目では、私が人形だなんて分からない。飲食が出来ない事と死なない事だけが、その証。
私を作った人形師と魔術師の仕事は、完璧だった。人形師が、人間と寸分違わない人形を作り、魔術師がそれを動くようにした。そうして出来た
人形。
命を与えた、とは私は思わない。私は人形。人間ではない。私はガラクタなのだから。
「その『マスター』という呼び方、何もそんな風に呼ばなくてもいいんだよ?」
「マスターは
マスターですから」
そう、覚えたての笑みを作る。
人形の私には、人間がどういう風に笑うか、分からなかった。だからマスターの為に覚えた。
この人が笑ってくれるなら、私はどんな努力もしようと思う。
ガラクタまみれ、ゴミが掃き捨てられていた場所にいた私を拾ってくれた人。
もう、誰も私のことなんて必要としないと思っていた。でも、マスターは必要としてくれた。
だから、私はマスターに尽くすのです。
「マスター」
私は、ガラクタだった。
私は、いらないものだから捨てられた。
マスターも私がいらなくなったら、同じように捨てるかも知れない。
でも、それまでは――。
「なんだね?」
「ありがとうございます」
それまでは、貴方が私の
マスター。
END
2010.3.11