アレンの通うここは、王立の魔法学園だ。
魔導士になるべく、強い魔力を持った者達が、切磋琢磨学ぶ場所だった。王宮に仕えるようなエリート、優秀な魔導士を育成する為の機関とも言える。入学への年齢制限は特になく、実力さえあれば可能だ。
とは言っても、やはりアレンほど幼い生徒は他にいない。12歳以上の生徒が一般的だった。
アレンは、自分の特異さを隠したくて、ここに入ったというのに、尚も異質なものとして扱われていた。
……否、寧ろここでの方がそうなのかも知れない。才能や力のある人間の方が分かるのだ、それがどれだけ異質で特異か。どれほど人間離れしているのか、それを持たざる者が漠然と感じるよりもずっと。
本当に、皮肉な話だとアレンは思う。
『子供のうちからあんなに魔力があるなんて、大人になったらどうなるの?』
『うちの子に近付かないで、魔法で何されるか分かったものじゃないわ』
『あいつ、魔物とか異形の血を引いてるんじゃないか?』
『気味悪い』
物心ついてからずっと、向けられてきた侮蔑と恐怖の視線。
投げられた数えきれない言葉は、どれも忘れられない。忘れられるものではない。
強大な魔力を持つ故に、アレンはその存在を否定され続けてきた。
彼らの目は、同じ人間へ向けるようなものではなかった。自分とは違う存在、異質なもの、そして自分達に害を及ぼす存在………そういったものに対する目だった。
化け物、という言葉が表すように、事実そう扱われてきた。
それはきっと変わることはないのだろうと思う。アレンがアレンで在る限り、それだけの力を持っている限り。自分はいつまでも嫌われ、蔑まれ続けるだろう。
ただ、人並み外れた魔力の強さをもっていたというだけで。その輪に入れないどころか、人としても扱われないのだ。
理不尽だ。なんて、理不尽なのだろうか。
(泣きたいよ、お母さん)
漏れそうな泣き言を、唇を噛んで堪える。
これ以上考えていたら、間違いなく泣いてしまう。思考を遮るかのように、アレンは小さく首を振った。顔に掛っていた両サイドの髪が、静かに揺れる。
――仕方、ない。諦めるしかないのだ。
世界はそういう風に出来ている。自分はそういう存在だと、ただそれだけの話。期待しなければいい。関わらなければいい。
(そう、たったそれだけの話なんだ)
アレンの瞳が、冷たさを増す。
まだ幼い、あどけない顔立ち。それに反して、その諦めたように冷めた瞳が、酷く違和感を与える。
だが、この場において、そんな少年の姿に心を砕くような人間などいない。
だから尚更、そのアイスブルーの瞳は氷のような冷たさを宿す。
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