「都市一つ無くすのと、国一つ無くすのは、どちらが正しい?」
 硬質な声が、大気を震わせる。常から女性にしては低い声だが、それでも堅い声。
 それは、その問いが、リュシウォンの虐殺のことを指しているからなのだろうか。
「どちらも、という答えはなしだ。どうやっても、両方を助けることは出来ぬ」
 僅かに逡巡しながらも、俺は言葉を返す。
「都市一つ、だ」
 純粋にその問いに答えるのならば、そう、やはり答えは決まっている。都市一つと国丸ごと、比べるのならばそう答えざるを得ない。勿論、人の命を天秤に掛けることなど間違っているが。
 それでも、血濡れの女王の虐殺はそのようなものではない。だから決してその所業を認める訳ではないのだ、という意志を込めて睨みつける。
「そういうことだ」
 そんな俺の瞳から逃げるでもなく、見つめ返してくる血濡れの女王の瞳は、深淵のような深さをもっていた。
「そういうこと、だと?」
 その瞳に気圧されながらも、怪訝な顔で見つめる。
 血塗れの女王は躊躇うような表情を見せながらも、覚悟を決めたように再び言葉を紡ぎ始めた。

「妾がしたことには、全て故あってのこと。リュシウォンの虐殺は、流行り病の蔓延を防ぐため。父殺しは、我が国を父の悪政から守るため。妹のことは妾が殺したのではない、あれは事故だ。重税も……」
「そんな言い訳を信じるとでも!?」
 澱みなくすらすらと出てくる、まるで用意されていたかのような言葉に、苛立ちをぶつけるように声を上げる。
 誰が信じると言うのだ。それだけの残虐を尽くした人間の言葉など。いくらでも言葉では偽れるというのに。
 血濡れの女王は言葉を止め、ふんと息を漏らした。
「言い訳? 今、そのようなことをしてどうなる? 妾は助かるのか?」
 鋭い眼光が、俺を捉える。
 その瞳は、何をやってもこの状況は変わらないと分かっている瞳だ。勝手気ままな愚かな女ではない、賢帝と呼ばれていただけはある。


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