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お礼小話過去ログ






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軟派男と真面目少女



 夕焼けが差し込む古ぼけた美術室には、二つの影があった。
 茶色に染めた髪に、着崩した制服を着た、明らかに校則など守っていないような男。そして、黒い髪を肩まで伸ばし、スカート丈はひざ丈の、真面目そうな少女。

「先輩ー」
「何よ」
 間延びした男の声に苛々しながらも、少女――千春は言葉を返す。
 無視するわけにはいかない。ただのナンパなどというものではなく、部活の後輩なのだから。さらに言えば、ここは部室なのだから。
「今度、デートしようよ」
 いつものように続いて出てきた言葉に、千春は大きな溜息をついた。
 こういう冗談は好きではないし、聞きたくもない。更に言うのであれば、そういう冗談を言う男と関わりたくもない。
 しかし、何度も言うようだが、男――陸は、部唯一の後輩であり、千春以外のたった一人の美術部部員なのだから、無下には出来ない。運動部が盛んなこの高校では文化部へ入部する人は少なく、とりわけ美術部は不人気で廃部寸前で、本当に貴重な部員なのだ。

「他の人に当たりなさい。他の人に」
「ええー! 先輩、酷い。本気なのに」
「アンタの『本気』ほど当てにならないものはないのよ」
「そんな。傷付くなぁ」
 そんなことを言いながら、陸は笑う。だから、傷付くなんて嘘。欠片も傷付いてなどいないのだ。
 そんなことが分かるくらいになるまで、それなりに一緒にいるということ。そんな言い合いを、千春が良心の呵責なく出来るようになったまでに、繰り返されているやり取り。
 千春の口からは、大きな溜息が漏れる。学年が上がり二年生になり、入ってくる後輩に期待に胸を高鳴らせていたというのに、実際に入部してきたのは、こんな冗談ばかりの女好きのろくでもない男だけだった。
「全く、アンタは可愛くない後輩よね。憧れてたんだけどなぁ。『先輩!先輩!』って懐いてくれる可愛い女の子の後輩」
「俺だって、『先輩!』って先輩に懐いてる可愛い後輩じゃないですか」
「だから、可愛い女の子の後輩って言ってるでしょうが。アンタみたいな女好きの女たらしはいらないわ」
 少なくとも、陸は『可愛い』後輩ではない。
 常に軽口ばかり、女好きのふざけた男だ。千春が一番嫌いな人種だ。
「えー、俺いらないなんて初めて言われた。普段女の子の方がほっといてくれないのに」
 本人が言うように、陸はモテる。いつだって、女の子にちやほやされている。本人の自惚れなどではなく、事実なのである。
 それがまた、千春は気に入らない。調子に乗ったイケメンなんて、最悪だ。

「馬鹿も休み休み言いなさい。とっとと作品仕上げなさいな」
 いつまでもこんなふざけた不毛なやり取りをしていても無駄なので、そう突き放すように言って、千春は目の前のキャンパスに集中し始める。
 静かになったところをみると、陸も自分の作品に取り掛かり始めたのだろう。
 なんだかんだと言ったって、陸は絵を描くことに関しては真面目なのである。だからこそ、千春は陸に苛立ちを覚えはすれど、追い出すことはなかった。
 二人だけの美術室には、画材の音だけが響き渡っていた。





END

2013.8.5

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