小説 | ナノ


ねー、気付いてますか?
俺が焦がれて焦がれて仕方がねぇってほど、 離れた君に会いたいって。
俺にとってこの世界がどんなに意味の無いものだったか、離れたいま気が付きました。
一方通行の片想いでいいよ、君からのレスポンスはいらないよ。
いらないから見届けさせてよ。
君の世界に俺を少しでいいから、置かせてください。
もうねー、はっきり言って知ってんの。
君が俺に微塵も気持ちを寄せてないことくらい、分かんの。
片想いしっぱなしで、告白もさらりとかわされて、だからねー、分かんのよ。
この恋の結末が何処へ向かうかくらい、わかんの。こっちももうね超ベテラン、長いわけ、君を諦められるような人が見つかんないかなーって、もう血眼なわけ。
目を皿の様にして君以外の誰かを探そうとし ても、無駄な足掻きだって分かってるからそ もそも全部諦めてんのよ。
何を諦めてるってね、君を諦めてんじゃない んだよ。
もう一生、これから生涯、君以外の人を好き になれないって諦めてんの。
親に孫を見せること、あったかい家庭、安心安定、それら全部ぶん投げて、君に向かってただひたすらに恋してんだよ。
俺は傲慢で自分勝手でわがままでたくさんの人を傷付けてきたから、君に振り向いてもらえないっていうわけ?
それなら絶対的にそういう仕組みの世の中であれよ。
俺が君に振り向いてもらえなくて傷ついた分だけ、君の恋が叶わない仕組みの世の中であれよ。
そしたら俺がそのぶん目一杯想って愛して幸せにするから、君は一生守られて暮らしてろ。

「で、一世一代の告白は振られたわけだ」
「うるせぇわ」
減らず口たたくなと言いたげにギロリと睨めつけてくるこの男は、たったいま遠距離の女に振られたらしい。
涙酒だやけ酒だなんだと居酒屋に呼び出されて子細を聞く羽目になった。
「当たって砕けろだったけどさあ、死して屍 拾うものなしだぞ」
「だったらさー…私が拾うよ。」
「は?」
こうなりゃ食べ終わりそうなスープの具のかけらをかき混ぜて探す様な惰性の恋なんかぶち撒けてやる。
「あんたの骨拾ってやるって言ってんの。ずっとあんたのこと好きだったから」
「え?なんで?なにこれ、おまえまじ?」
まじまじ。
「離れたあんたに会いたいってやつ、この超近距離で共感出来るんだから大マジっす」
「…」
奴は固まったままそれきり黙って、私は奴のすいかけの煙草が灰になるのを見つめる。
もったいねー、22円が無駄なぼんやりで灰になったよ。
「おまえ、彼氏いんじゃねーのかよ」
「彼氏いたらあんたが振られるのをリアルタイムで聞きに来てないわ」
そーだよなー、と力なく返してテーブルに突っ伏した。
「今振られて今告白されるとか俺の人生ジェットコースターかよ」
「そんないいもんでもないと思う。」
あとさっきのあんたの告白、まじでブーメランだからね、というと奴は発狂したように、うわー!と自分の髪を掻き混ぜて項垂れている。
「俺さー!ちょっと揺らぐぜ!」
飲んでたビールを吹き出しそうになるのをぐっとこらえた。
「散々好きだ愛だって言ってたくせに、この ろくでなし」
バーカバーカという幼稚な野次も付け加えて おく。
「そのろくでなしに告白したお前はなんだ よ」 少しの逡巡のち、ぼそりと答える。
「うーん、人でなしかな…」
大体好きな人の幸せを願わずに振られてくれればいいなんて、あんたも私も相当に後暗い感情なのだ。
類友よろしく人でなしは人でなしらしく、群れてることに致しません?
「俺達、もうほぼ病気だよ」
「類友っていうか、同病相憐れむ」
ネガティブな人間の方が共感能力高いなんて、薄ぼんやりした考えよりしっくりくるでしょ。

ねー、気付いてましたか?
私が焦がれて焦がれて仕方がねぇってほど、離れてもないあんたに会いたいって。
私があんたに振り向いてもらえなくて傷ついた分だけ、あんたの恋が叶わない仕組みになったわけだけど
そうして絶対的にそういう仕組みの世の中で、私がそのぶん目一杯思って愛して大切にするから、あなたは一生幸せに暮らしてろ。

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