▼兄離れてた仗助片割れ


遺産整理の過程で発覚した祖父の隠し子。承太郎にとって年下の叔父にあたる高校生はどうやら双子であるらしい。彼らの住む町へ足を踏み入れた際、承太郎が接触したのは兄の方である東方仗助だ。特徴的な髪型やプッツンの仕方はともかくとして、スタンド能力を身に付けている彼とはその後も幾度と関わりを持つことになるのだが……弟の方の理汪とはろくに言葉を交わしたことさえなかった。秒単位の接触を思い浮かべても、精々チラリと目があった程度。唯一とさえ言っても過言ではないその時というのは、仗助が瓶の中にアンジェロのスタンドを閉じ込めたという連絡があった後のことで、東方家に到着して窓越しに顔を合わせた仗助の後ろから、祖父から取り上げたのだというブランデー瓶を揺らして持ってきた姿がわずかに見えただけ。とはいえ、目があった直後には迫っていた危険を自覚した仗助が激しい感謝を示し、かと思えばハッとしたように瓶を承太郎に預けて「つか、なに起きてきてんだお前はよお!」と片割れを部屋へ送り返しに向かったので、やはり言葉を交わすこともなかった。
弟の方が病弱らしいことを知ったのもこの時だったか。いや、正しくは後々に仗助から相談を受けた時、というのが正しいかもしれない。
その相談というのが、十年前のホリィについて……正確には、DIOやスタンド発現の影響による後遺症の有無についてだ。叔父の片方がスタンド使いとなれば、もう片方も同じである可能性は高い。もとよりその辺りの事実確認はしておきたいと思っていたところに、仗助の方から時間をとってもらえないかという連絡があったのだ。
結論から言って、仗助の問うような前例に心当たりはなかった。ただ、五歳の時の高熱を契機として片割れの病弱さが現れ始めたのだという詳細を聞けば、そこに関連性を見いださずにはいられない。聞けば、理汪はスタンドを視認すること自体は可能だが、スタンド能力の有無については「仗助みたいなのは出てこないなー」という返答があるだけだったという。実際、それらしい影を見たことはないらしい。とはいえこれだけの情報では原因にスタンド能力が関わっている可能性はやはり肯定も否定もできない。結局その日はなにも明らかになることはないまま、彼もまた「スタンド使いは引かれ合う」法則に当てはまる可能性はがあることだけは頭の隅においておくよう忠告をして終わった。
杜王町での事件は、結局は理汪にこれといった危機が迫ることもなく集結することになる。間に東方家に侵入したスタンド使いを背後からの後ろ回し蹴りで沈めたという武勇伝が入るが、これについては承太郎は事後報告を聞いたのみで、やはり顔をあわせる機会はなかった。
正直、彼とは縁が無いものだと。それきりで終わるものだとばかり思っていた。
「うっ、わ!?」
「……!」
だというのにどういうわけか。承太郎は今現在、入り組んだ路地の階段から突如飛び出してきた叔父の片割れとほんの数センチの距離で目を合わせている。見知った顔が相手だったためか、避けると言う選択肢は浮かぶことさえなく、承太郎の腕は反射的に理汪へ向けて伸びていた。飛び出してきた理汪が突如進行方向に現れた人影を前に、本来取ろうとしていた受身の姿勢を崩したのが目に入ったのも一因だったかもしれない。
何はともあれ、一、二メートルほど上段から飛び出してきた叔父を肩に担ぐような形で抱きとめることになった承太郎は、衝撃を一歩引いた足でこらえつつ、自分の置かれた状況、ひいては理汪が飛び出してきた状況の方に思考を向けた。彼がやってきた道の向こうに視線を向けて、追手らしき何らかの影がないかをを警戒してしまうのは身についた習慣とも言えるだろう。仗助に忠告した手前、承太郎もこの少年が危険を引き寄せる可能性があることは忘れてはいない。
コートの背中部分が強く握りしめられているのは、俵担ぎのような体勢が落ちつかないせいだろう。当然承太郎にはうっかり落とす気はないが、上体が下へ向いている状況というのは不安定に感じるらしい。足場を安定させずに抱き上げた犬がぼんやりと思い浮かぶが、相手はあくまで人間である。
「……びっ、くりしたあ……おにーさん、どうもありがとう……?」
「……君は仗助の弟だな。急いでいるようだが、何かあったのか」
「あ、やべ」
忘れていたとばかりにポロっと零した声は、何かしらの事情があることを白状したも同然だ。これが単に待ち合わせに遅れる等の焦りと言うのなら問題はないのだが……残念ながらその可能性を即刻排除するようにして、理汪が現れた路地の向こうから警官が駆けて来るのが見えた。
「……何をした?」
「ははは」
「……やれやれ。警察沙汰とは笑いごとじゃないんだがな」
「放してくれたらひとっ走りするんで、知らないふりでどーぞ。甥っこさん」
「仗助から聞いてはいたのか」
「まあ、一応は」
「その体調でこれ以上走る気か。……悪いようにはしないから、ひとまず大人しくしていろ」
担いでいる状況が長く続くほど、布越しに感じ取る体温は正確になってくる。身体が弱いとは聞いていたが、そもそも杜王からは少し離れたこの隣町、恐らくは熱があるのであろう状況で遠出をするのにも感心できない。
承太郎は地面に下ろした年下の叔父を改めて見やることで逃亡を牽制してから、ようやくここまで追いついた警官に向き直った。警官は立ち止まっている理汪を見てホッとした顔をしている。追いつき次第取り押さえに来ないあたり、さほど差し迫った理由で追われていたというわけではないようだ。
「ああ、すみません。引きとめてくださったのですか!助かりました!」
「彼は身内です。何かあったのならば事情をお伺いしたいのですが」
「身内?……ああ、いえ、そんなに大変な問題と言うわけではないのですが……少し離れた場所で事件がありまして。彼にも話を聞こうと思ったところで逃げ出してしまったので……」
チラリと警官が理汪に向ける視線には、僅かな疑いの色がある。逃げればやましいことがあると告げているようにも映るのだろう。承太郎は「私との待ち合わせの時間が迫っていたので、焦っていたのでしょう」と助け船を出してから事件の詳細を訪ねた。理汪はもうすっかり諦めた様子で肩をすくめて大人しくしている。警官は未だスッキリしない顔をしてはいたが、承太郎が続きを促すように目を細めると、びくりと肩を揺らしてから慌てて詳細を語りはじめた。
「事件と言っても、何と言いますか……向こうに地元の小さな娯楽施設がありまして。そこで怪我をした男性が騒いでいるんですよ。その子がズルをしただの、足をひっかけただのと」
「……なるほど。それで、事実この子がやったと?」
「い、いえ、店の常連客の方は一切そのようなことはなかったと。ボードゲームに負けた男性がいちゃもんを付けた挙句、殴りかかろうとしたという話で。怪我をした男性は殴ろうとしたところを転んで怪我をしたらしいのですが……怪我の程度が転んだと言うには……いえ、それでもみなさん、その男性が殴りかかろうとするたびに一人で転んで怪我を繰り返したのだと言うのですが、状況が状況なので……」
承太郎が黙って視線を向けると、大抵がこうして気まずさから逃れようと饒舌になる。が、語られれば語られるほど警官が抱いた疑念に対して、承太郎には別方向の疑惑が生じ、無意識のうちに表情は険しくなっていたのかもしれない。こちらを見た警官が明らかに慌てた顔をして、だんだんと言葉が尻すぼみになっていく。
「……話はわかりました。ただ、うちのは今酷い熱がありまして。目撃者が山ほどいると言うのなら、そちらの聴取を優先してお願いします。どうしても話が必要と言うのならここに連絡を」
一人で繰り返し転ぶ、と周囲に映る状況というものに、スタンド使いとしては心当たりがある。見えない人間相手にスタンドで足を引っ掛けるだのというのは案外常套手段であり、理汪が殴られかけたというのなら、それを偶然を装う形で阻止したとあってもおかしくはない。
が、そうであるのならば余計に確認しなければならないことがある。
承太郎はメモ用紙に書き殴った番号を破って手渡し、大人しくしていた理汪の背を押して歩きだした。完全に圧倒された様子で立ち尽くす警官が追ってくる気配も文句を言う気配もなく、ある程度距離が出来たところで理汪は「ありがとうございました」とどこまで心がこもっているのか図り辛い感謝を口にした。
「君はスタンド使いか」
対して、会話のキャッチボールには程遠い形で、承太郎は直球の問いを返す。
「あー。守護霊的な。見えますけど、仗助みたいなのは出てこないですねー」
へらりとした回答に、確信。承太郎は前方に見えてきた車を見つめてキーを取り出しながら「なるほど、スタンド使いか」と堂々と誤魔化された事実を言い当てた。理汪はぱちりと瞬いて立ち止まる。承太郎は助手席のドアを開き、「乗っていけ。家まで送る」と乗車を促し、自分も運転席に乗り込んだ。
「……今の、何をもっての確信?」
「二度繰り返す言い回しは、胡散臭さを増すだけだ」
「……あー」
「人型ではない、ということか」
「仗助から聞いてたかー。しまった、痛恨のミス」
「わからないな。片割れが同じものを持っていて、なぜ隠す必要があった?」
「んー……何をするスタンドかを話したら怒るかなって思って。仰る通り人型じゃないもんで、存在を見せたら十中八九その話になるかなーと」
「さっきの騒ぎもその能力か。それとも足を引っ掛けでもしただけか」
「甥っこくん質問が多いっすよー!やだー!そっちも自己紹介してー!」
わっと泣き出すように顔を覆って背中を丸めた理汪を横目で見ながら、承太郎は何とも言えない気分でエンジンをかける。双子、というのはここまで性質が違うものなのか。仗助とは全く違ったへらへらとした態度だが、よくよく考えればこの態度、どことなくジョセフを思い起こさせる部分もある。あれの直系となればそう不思議なことでもないのだろうか。承太郎はこぼれそうになる溜息を飲み込んで、サイドブレーキを外した。
「……空条承太郎。スタンドは接近、パワータイプ。精密な動きが可能で、数秒時を止められる。次はそっちだ」
「うわ、あっさりと。そんなに知りたいんですか」
「そんなに隠したいのか」
「手札は伏せてこそ、なんで。……でも先に出されちゃフェアじゃないですよねえ。まあ、もういいか。……俺のは……見た方が早いかな。これ、この本です」
ブレーキペダルから足を退けようとしていたところを、隣であっさりとスタンドを出現させられて踏みとどまる。隣を見れば、理汪の手元には少し痛んだ本があった。一見するとただの分厚く古びた本。確かに、『仗助みたいな』ものではない。
「危害を自動的に肩代わりするスタンド能力です。無かったことにした危害はこの中に借りとしてリスト化されて、本体……俺自身の身体的不調と言う形で返済されていく。……さっきは本当に殴りかかられるはずだったんですよね。これが働いたおかげで、加害者はうっかり転んで、殴るという事実自体が無かったことになったわけですけど」
「身体的不調?今の熱もそれか」
「そっすね。……あ、出かけるときは全然元気だったんですよ。でも、無駄な負債抱えちゃったなあ。面倒くさそうな人とは遊ばないようにしないと」
「……賭博でもしてやがったか。まったく、血筋だな」
「何でさっきから良い当てられてんだろ。こわ。……あ、でもお小遣い感覚なんで。向こうも向こうで自分まで不利になることは言わないですよ」
何が小遣い感覚だ。承太郎は抜き取った万札を数えながら今度は飲み込むことのないため息をつく。それに気付いた理汪がぎょっとした顔で自分のポケットに手を突っ込む姿を横目に捉え、数えた万札を返してようやく車を発進させた。「スタンド?はやっ」と隣からの声が十割を感心で占めているのにもいささか問題を感じざるをえない。手際の方に関心を向ける辺り、先ほどの警官の話にあった『ズル』という点に関しては嘘ではなかったのかもしれない。
「こういう遊びは面倒事を引き寄せる。やめておけ」
「はーい」
「……今、嘘をついただろう」
「イエス!」
運転中にもかかわらず頭を抱えたくなった。中々に強かなタイプである。
「そんなに楽しいか」
「何が?ギャンブル?」
「認めたなお前」
「はは。別に病みつきってわけじゃないから安心してくださいよ承太郎サン。ちょっと御金稼いで家計の足しになったらなって。うち母子家庭だし」
「……仗助はいいと言ったが、ジジイが死ねば遺産が入る。足しにはなるだろ」
「いやー、自分で稼いだお金じゃないと。なんつーか、ほら、俺のスタンドあれじゃないですか。自業自得の負債で、結局医療費負担かけちゃってんですよね。それくらいの責任は未成年のうちにも少しずつ返したいなーって」
もっともな意見に対する評価よりも先に、承太郎の中には違和感の方が勝った。丁度赤信号に止まった車の中で数秒黙り、『スタンドの返済』について考える。
返済、というものがどういう危害に対してどれほどの重みで返ってくるのかがわからない以上は全て憶測にすぎないが……それにしたって、仗助は『昔からしょっちゅう体調を崩していた』という類のことを言ってはいなかったか。それがあくまでスタンドの弊害であることはたった今助手席側から認められたも同然だ。となると、理汪は『しょっちゅう』の危害を抱え続けていたことになる。
東方理汪という存在は仗助のように喧嘩っぱやいわけでもなく、むしろ友人関係もある程度は広い穏健派という話であったはず。そんな生活で、五歳から今現在までの間に病弱と認識されるほどの負債を抱えるというのは、釣り合わない部分があるように思う。
となると、だ。
「……君のスタンドは自分以外にも適応できるのか?」
一人分ではない。その可能性は否めない。
「……思考力こわ」
一瞬の間を開けた少年の感想は肯定とイコールで結ばれた。
「仗助の分を肩代わりしたのか」
「予測できる範囲しか無理ですけどね。やり方がちょっと違うんで。……ね、仗助怒るっしょ、これは。体調崩すたびに何やったんだって詰め寄られたらたまらんってやつです」
理汪が肩を竦めておどける。その視線が流れていく窓の外の景色に向いたのは、これ以上この話題を続ける気はない意思表示だったのか。
車内はその後長い沈黙を保った。この後に承太郎が再び口を開くのは、目的地近くに車を止めてからのことだ。
「君のスタンド能力は危険だ」
斜め前方に東方家を捉えた停車位置。率直にそう告げて承太郎はサイドブレーキを引いた。暖かな家庭といってまず間違いのない家をじっと見つめながら、助手席からこちらを見上げる理汪に続ける。
「返済の元手に単位をつけるなら、それはいわば生命力だろう。円でもドルでもない。上限があり、決して稼げるものではない。……自己破産が起きたとき、どうなるか予測がつかない」
恐らく、理汪はまだまだすべてを語ってはいない。その状況での推測は全くの検討違いである可能性もゼロではないが、検討違いであるならばそれに越したことはない。問題なのは、予測が的中している場合。
承太郎は理汪に視線を合わせ、続けた。
「君の強かさは嫌いじゃない。息を吐くような嘘も、呆れはするがむしろ評価に値する。だが、その裏で身をすり減らすような生き方は関心できない」
こちらを見上げる理汪の表情はうまく読めない。だが、そこにあるのが繕う笑顔ではないことに、この言葉が届いていることは確信できる。
「君の命だ。請け負いすぎるな」
とん、と彼の胸を叩いたこの指の甲も、彼の無茶を踏みとどまらせる一因になるといい。ほんの一瞬揺らいで見えた彼の瞳は、しかし揺らいだ事実を隠そうとするかのように顔ごと背けられ、そのまま理汪は俯き黙りこんだ。
「……その優しさが俺を殺すんだ」
小さく、かすれるような一言は、エンジン音のない空間でなければ聞き取れはしなかったかもしれない。
「承太郎さん。俺の命に優しくしたいなら、心に優しくしたら駄目だよ」
「……なに?」
「命と心を両立して守るのは難しい。すごく、すごく難しい。でしょ?」
顔をあげた理汪は、もうそこに微塵の動揺も残してはいなかった。小首をかしげて持ち上げた左手で薬指の存在を主張し、へらりとした笑みで言い当てる。
承太郎の左の薬指には、うっすらとした指輪のあとがある。
承太郎はしばし言葉を失った。彼が言わんとすることがわかって、柄にもなく二の句が継げなくなる。
思考力が怖い、と先程承太郎に向けられた言葉が今は白々しくさえ思えた。仗助にさえ与えていない情報をこの短時間で導きだした身で何を言うのか。この町ではじめて仗助に出会った時に抱いたのとはまた違った『クレイジー』という印象が、その半身に対してじわじわと沸き起こる。その最中。
――こんこん。
言葉につまった承太郎の思考は、ふいに窓ガラスをノックする音に遮られた。音の方を向けば、車のすぐそばにこちらを覗き込む仗助の姿がある。
承太郎は応えるように窓を開け、怪訝そうに承太郎を見下ろす仗助と目を合わせた。
「承太郎さん、何してんすか?つか、なんで理汪が」
「……熱がある状態でふらふらとしているのを拾った。後は任せる」
「は!?おいおい、理汪、朝は元気だったろ。大丈夫かよ」
熱、という単語に仗助は慌てて助手席側へと回り込み、ドアを開けて理汪の額に手を当てる。「へーきへーき」と笑う理汪はそのままシートベルトを外して車を降り、承太郎を振り返って「ありがとうございました」と会釈をする。続くようにして同じく感謝と謝罪を述べる仗助は、ひとつ頷いた承太郎に改めて頭を下げ、慣れた様子で片割れの手を引いて歩き出した。その背へ。
「仗助、お前の片割れはスタンド使いだ 」
投げた言葉にぎょっとした顔で振り返った双子は、ここに来てようやく似た表情を見せることとなった。もっとも、そこに込められている感情自体は異なるのだろうが。
承太郎はうち一方の感情に目を向け、口を開く。
「理汪。君の片割れは長年そばで見てきた弟の苦痛の解決策を探そうとしている。気持ちを裏切るのは本意ではないだろう。きちんと話しなさい」
怒られる、の一方で心配をかけさせることを避けたかったのであろうことは察しているつもりだ。だが誰かのためという嘘や自己犠牲は、その大抵が相手側からは受け入れがたいものでしかない。負債が溢れてしまってからではどうしようもないのだ。
命と心の平穏を両立させることは難しい。確かに、承太郎は妻子の心を切り捨てる形で命を守ることを選択した。
だが、本来そこにあるのは不可能という冷たい文字ではなかったはずだ。承太郎はただその選択をしなかっただけ。欲しいものを全て手に入れようとする意志は、若かりし日に経た「できなかった」という強い記憶に一度へし折られてしまった。全てをこの手に残してはおけない。一部を諦めることを学んでしまった心は、この年ではもう動かすことができなくなってしまった。何より、そう割り切ってしまっている。
だが彼はまだ諦めなくともいいはずだ。承太郎が一度大きな喪失を経験したあの年齢にも満たないほどの少年というのならばなおのこと。
結局は、諦めてほしくないという承太郎のエゴに過ぎないのだとしても。

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