出る杭は打たれ強い 土方の話。 |
下卑た笑いを浮かべた男が目の前に立ち塞がった。周りを見渡せば、目の前の男と同じような下品な顔に囲まれている。雑魚は群れるし、弱い犬はよく吠えるものだ。何やら自分に恨みがあるらしいが、とんと覚えがない。 申し訳程度に言い分を聞いてやれば、女を取られただとかなんだとか。これは意外なことである。真選組の土方として恨みを買う心当たりはあれど、浮いたこととはご無沙汰であった。女の名に覚えはなかった。岡惚れの逆怨みだろう。それをそのまま言ってやれば、男は逆上して、木刀を振り回しながら向かって来た。 当てる気があるのかないのか、無駄な動きが多すぎる。相手は攘夷の思想を持つわけではなく、帯刀もしていないので刀は抜かない。抜くまでもない。ブンブンと不規則に飛んでくる木刀の先をいなしながら、ガラ空きの胴に膝を入れた。 それを見て周りの男たちも一斉に襲いかかって来たが、碌に喧嘩もしたことがないのか、雑魚同士での小競り合いしか経験がないのか、身体の使い方を知らないらしい。よく言えば果敢、悪く言えば無鉄砲。 間合いに入って来た奴から、殴り、蹴り、投げ飛ばす。殴るときは胸ぐらを掴む。威嚇ではない。吹っ飛んで頭でも打ったら事だからだ。 普段、剣だけやってるわけじゃない。体術はとうの昔に一通り叩き込まれた。とは言っても刀を振り回す機会がよっぽど多いから、いい腕慣らしである。情けで骨は折らないようにしてやった。 ウオー、と雄叫びを上げて突進して来たのは、最初に伸したと思ったリーダー格の男だった。腰のあたりをがっちり掴まれて、その隙に、他の奴らが塊になってぶつかって来る。なにぶん数が多いので避けきれず、拳が顎に入って脳が揺れた。威力はそんなに強くないが、うっかり膝をついた。 なかなか見どころあるじゃねえか。最初に蹴りを入れた時点で音を上げるかと思っていたが。 土方は砂利混じりの砂を握り込み、思い切り投げた。 二十人ほどの男たちは、ものの十分で制圧された。 「ズリイ、目潰しなんて」 行儀の悪さは性分である。ふてたような声で、リーダー格の男が呟いた。その声には少し、幼さが残っている。 「悪いな。でもハンデあったろ」 多勢に無勢。刀無しの出血大サービスだ。 「オメー幾つだ」 「……十九」 男は伸びたまま忌々しげに答えた。まだ餓鬼だ。 「その歳で惚れた女のために俺に喧嘩売れんなら、大したもんだな」 土方は名刺を取り出し不遜に投げた。 「血の気余ってんならウチに来な。打って付けの場所だぜ」 男がその名刺を拾ったかは見届けず警邏に戻った。あとはあの男次第である。顔は覚えた。 - - - - - - - - - - タイトルはマルボロのキャッチコピーその2。 |