To be, or not to be


土沖。
※微死ネタ


「体調が悪いんじゃないのか」
 今年の七月で三十二になると言うのに、周りにとって俺はいつまでも子どものようで、今も土方に副長室に呼び出され、こうして膝をつき合わせてお説教を待つ態勢でいる。
「いいえ?」
 俺はもっと嘘が上手くなったし、土方も落ち着きが出た。近藤さんは相変わらずだが貫禄が増した。
 俺の嘘が上手くなったのと比例して、俺らが付き合ってきた年月もさらに重なって、周りも俺の嘘を見抜くのに慣れたもので、せっかく上手についた嘘はそんなに効果が無かったりする。
 それでも俺は、暗くなり始めた副長室で、土方に向けた土方のための嘘をつく。そうすれば土方は偽りの安心を手に入れて目を逸らしてくれるはずだった。
「体調が悪いんだろう」
 今日の土方は手強い。こうなるともうダメだ。この人は開き直ると俺なんかじゃ太刀打ちできない、鋼の精神と周到な準備でじわじわと確実に追い込む。だから俺も開き直ってやることにした。
「だったら何なんです」
「療養か、仕事を減らすか、相談してくれたらなるべくお前の望むようにするつもりだった」
「療養も仕事減らされんのも望んじゃいやせんぜ」
 刀を持てなくなるのは嫌だった。療養なら誰もいない武州に帰されるのだろうし、減らされる仕事はまず討ち入りのはずだ。十四の頃から刀を振るって、誰よりも人を斬ってきた。俺が人を斬る中で、俺も数多人に斬られた。前線を走り抜けてここまで生きているのはもう俺だけで、一番隊は入れ替わりが激しい。死ななかった代わりに、斬られた回数は少しずつ積み重なって、呪いのように内側から俺の体を蝕んでいる。
 四年ほど前から騙し騙しやってきたが、それももう限界なのかもしれなかった。だからと言って。
「俺ア辞めませんよ」
 視線で人を殺せそうな勢いで俺を睨む土方。
「俺ァー番隊隊長だ。戦える身体があれば近藤さんの剣だ。まだできる、 まだやれる。身体が多少ダメんなったって、刀持って近藤さんを護れる限りは、動かせる部分がある限りは、俺ァ辞めねえ」
 最後の方は殆ど叫びに近かった。もう全てが遅いのだから。十四で刀を持ったあの時から、一番隊で隊長を張った時から、こうなることは決まっていたのだから。
 死んだように生き永らえるくらいなら、俺は俺のやり方で、沖田総悟であり続けてさっさと死ぬのがいいに決まっている。
 日はとっくに落ちていて、真っ暗になった副長室で二人、何も言わず睨み合っていた。 土方は何を言おうか、どうするべきか、考えあぐねていて、それは副長の顔よりは俺の兄貴分だった。認めねえけど。

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"生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ"という言葉、死に向かう方に信念があるんだなと思いました。
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