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 変わらず次の日も押入れから出てこないジョセフィーヌ五世を訪れたのは長曾我部であった。元々大して力のないジョセフィーヌ五世が長曾我部との力比べに勝てる訳もなく、押入れを開けられた。食事どころか厠にすらいかないせいで、ジョセフィーヌ五世の身体は一日で限界を迎えかけている。
 腕を引っ張ろうとした長曾我部も、漏れる、との一言で、手を引っ込めた。いつものように無表情を保っていたが、血の気が失せた土気色の顔は、尋常じゃないぐらい可笑しい。
 タイミングから見たところ、小早川主従が怪しいと、誰もが睨んでいた。


「おい、アンタ」

「この年齢で寝小便を漏らしてしまうのは、恥ずかしいや情けない通り越して、虚無に陥りそうです。大谷さんのことを考えれば、犬のように嬉ションをしてしまうかもしれませんが」

「とりあえず今漏らしたら寝小便じゃねえのは確かだな」

「それはそれは」


 淡々としながらも、いつもの饒舌さがあまりない。純粋に膀胱の限界を迎え始めていた。ほうっておけないと思ってやってきたが、異性である自分がどうにかできる問題ではない。長曾我部は女中を呼んだ。
 そして、ジョセフィーヌ五世を安心させるために声をかける。


「アンタが何に怯えてるかは知らねえけどよ、裏を通って離れの厠だったらあいつらには会わないで済むだろ。心だけじゃなくて自分の身体まで追い詰めんな」

「お優しいのですね。ありがとうございます」

「そりゃあダチだかんな」


 先日のジョセフィーヌ五世の言葉を気にしていたのだろう。強調された【ダチ】の言葉。聞き慣れない音は、自分に馴染むことは永遠にないと思われた単語だ。
 に、と笑みを浮かべる長曾我部が、内心疑心を抱いていることにジョセフィーヌ五世は気づいていた。問わないでくれることを心の中で謝罪と礼を言い、自分の膀胱を叱責する。
 漏らすのは勘弁したい。
 ジョセフィーヌ五世の脳内の八割を占めるのは、その想いだ。残りは勿論大谷のことである。

 そんなジョセフィーヌ五世の元にやってきた女中が持ってきたのは、竹の筒であった。尿筒。そう呼ばれたものがなんなのか、疎いジョセフィーヌ五世でも気づく。

 逃げるように部屋から去った長曾我部の背中を見送り、ジョセフィーヌ五世はふるふると首を横に振った。 一瞬の恥か。一生の恥か。
 女中の厳しい言葉に、ジョセフィーヌ五世は覚悟を決めるしか道が残されていないことを知る。


 厠を我慢するのは最初で最後にしよう。
 ジョセフィーヌ五世は、早くも次の周へといきたい衝動にかられながら、反省と学習をした。



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