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「シマサさんはお友達が多いのですね」
部屋の片隅で頭のたんこぶをおさえる島に声をかけたのはジョセフィーヌ五世だ。鶴、市、長曾我部、島、ジョセフィーヌ五世と比較的大人数集まっているが、各々自由に自分のことをしているため、あまり会話はない。鶴と市があやとり。長曾我部がからくりイジリ。島は石田からの説教から逃げるため避難。ジョセフィーヌ五世は大谷と毛利の話し合いが終わるまで待機だ。
幾度もめげず言葉を交わしたおかげか、ジョセフィーヌ五世は島を避けることが少なくなった。隣ではなく人二人分ほど離れたところに座ることも、慣れた。
賭場に行ったことを石田に叱られた島を見て、ジョセフィーヌ五世は思う。石田から嫌われることが怖くないのだろうか。他に仲良くできる人がいるから困らないということなんだろうか。そこまで考えて、ジョセフィーヌ五世は自分が大谷に嫌われても平気だということに気づいた。一緒にいるだけで幸せなのだ。ただ、近くにいれれば、それだけでいい。
それに。
ジョセフィーヌ五世は、じっと見られて気まずそうな顔をする島を、大谷の敵だとは思わなかった。大谷の味方であるならば、大谷を不幸にしないならば、例え自分を殺す人間であろうと『いい人』だ。
「唐突にどうしたのさ」
「正直に申し上げますと、大谷さんに、大谷さん以外の人間を観察するように言われました。手始めにシマサさんを観察している最中でございます」
「へぇ。それでジョセフィーヌちゃんから見て俺、島左近はどういう人間なのさ」
「マジパネー、みたいな感じです」
「えー、そんな褒められるとさすがの俺も照れる、みたいな」
どこまでも適当な人間観察の結果だったが、島はそれで良いようだ。後頭部をポリポリとかきながら照れる島に、からくりを弄る手をとめ、長曾我部はつっこもうかどうか迷っていた。
ボケ無法地帯。一度足をつっこめば、他人事ではいられなくなってしまう。
「つっても俺、友達の数普通じゃねーかな。ジョセフィーヌちゃんも友達ぐらいいるっしょ」
「生まれてこのかた友人というカテゴリーに当てはまる人間ができたことがありません。どのようなものかも皆目検討がつかないので、教えていただけますか」
思いもしない質問に島は閉口した。
代わりに解かれたボケの固有結界へ踏み込んだのは、長曾我部だ。人好きのする笑顔を浮かべ、会話に入る。
「ジョセフィーヌよぉ、よく話してる俺はダチじゃねえのかい」
「私と長曾我部さんは友達だったのですか? 初耳です」
きょとん、と見上げるジョセフィーヌ五世に、長曾我部は石化した。今の今まで友人として接していたつもりが、全く伝わっていなかった。今まで友人ができたことがないから、という前提があったとしても、長曾我部にジョセフィーヌ五世の言葉が重くのしかかる。
慌てたのは島だ。長曾我部に駆け寄り、肩を叩く。
「ちょ、え、ガチで言ってんの!? 長曾我部さんかわいそー。ほら、涙目になってんじゃん!」
「な、なってねぇよ! ばーか!」
騒がしい三人の会話が気になったのか、鶴と市も間に割って入った。にこにこと鶴が、ジョセフィーヌ五世の手を取る。
「ジョセフィーヌちゃん、私とお友達になりましょう!」
「不束者ですがよろしくお願いいたします。鶴さん、私にとって初めてのお友達ですが、よろしいのでしょうか」
「もちろんですよ! いっぱい仲良くしましょうね!」
「市も……あなたとお友達になりたい……」
「これはこれは。まさか一日で二人もご友人ができるとは思いもしませんでした」
「ちょっと女子ー! 長曾我部さん泣いてるからもうやめてー!」