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島に連れられ、柴田がやってきたのは明朝のことであった。賭場にでも遊びにいったのか、素寒貧となって帰ってきた二人を発見したのは、偶然にもジョセフィーヌ五世だった。といっても、大谷の部屋の前で湯呑を押し当て、寝息に耳を澄ませている格好だったことから、島に引き剥がされ、監視の名目で柴田を隣に置かれた。茶を出すから、と言われても全く割に合わない。
ちらり、と柴田は目線だけ動かし、ジョセフィーヌ五世を見た。表情に出さずとも不貞腐れているのは一目瞭然であり、ジョセフィーヌ五世は柴田に一言も声をかけない。柴田も初対面の人間相手に戸惑いながらも、これ以上気分を害さないため、無言を保つ。だが、再び大谷の部屋へと耳を押し当てるジョセフィーヌ五世を見て見ぬふりは出来なかった。
既視感があったのだ。柴田は、遠い過去に市相手に同じことをやったことがあった。もっと言ってしまえば、今ジョセフィーヌ五世と交友を深めれば、同じ西軍であるお市に近づけるかもしれないと下心も抱いていた。
「貴方は、執着すべき恋しい方をお持ちなのか」
「はい。全て一方通行の想いではありますが。愛は真心、恋は下心なんてどこぞの方が言い始めたのか存じ上げませんけれど言い得て妙なり。私の想いは我が儘の一言に尽きるのでしょう。それゆえに出来うる限り、一緒に過ごしていたいと願っています。例えこの腕が千切れ、足が擦り切れようと、私は私の我が儘を突き通します」
「己が侭を通す。貴方のようになれれば、私はあの方々の仲を引き裂いてでも愛しい相手をこの胸に抱けるのだろうか」
手に持った湯呑を下ろしたジョセフィーヌ五世は、ゆっくりと柴田に振り返る。表情の変化が見られない二人であったが、先程より強ばった空気が和らいでいた。
「好きな方に恋人でもいらっしゃるのですか?」
「ああ。夫となる方がいらっしゃる」
それはそれは。ジョセフィーヌ五世は俯き、思案する。大谷が誰かと夫婦になったことでも想像しているのだろう、と柴田は考えた。だが、顔を上げたジョセフィーヌ五世の言葉はまったく違うものだった。
「NTR、をご存知ですか?」
「ジョセフィーヌちゃんたーんま!」
戻ってきた島が、ジョセフィーヌ五世の口を塞ごうとしたが、次の瞬間数珠が飛んできたため空振りとなった。数珠が飛んできた方向には襖を開けた寝起きの大谷が、じとりと三人を睨んでいた。
やば。焦りを見せる島の横で、柴田も嫌な予感に冷や汗を流す。考えてみれば寝ている大谷の部屋の前で騒いでいたのだ。八つの数珠が大谷の上で円を描いている。
謝罪の言葉を言い終える間もなく、三人にさんざめいたのは無数の星であった。