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腹を押さえる気力も残っていなかった。徐々に失っていく体温と、腹から溢れる血。小さく咳き込めば、口からも血が出てきた。そうか、また死ぬのか。認識した途端、恐怖に全身が凍える。
嫌だ、死にたくない。
大谷さん、会いたい。あなたに、もう一度、会いたい。ごめんなさい。私のせいです。ごめんなさい。私は生きたくて、逝きたくなくて、あなたのもとへ行きたいのです。
見知った戦場で、見知った死体に囲まれ、見知った死を迎える。当初は理不尽だと思えた展開は、きっと我侭な私への罰なのだろう。何度味わっても、死ぬのは怖い。痛いのならば、平気。
悲しげに、睨みつけるように、見下ろす目。
長曾我部さん、あなたはいつからそんな目で私を見るようになったのですか。初めはそんな目で見なかった。なんて、どんな目で見られていたか覚えていないのだけれど。
そういえば。今回初めて長曾我部さんに殺されるのですね。
絶対に殺さない。いつか、そんなことを言われた気がしましたが、この世界の長曾我部さんとは違う長曾我部さんの話でした。ごめんなさい。記憶があやふやで、何を覚えていればいいのかわからないのです。
私を殺す瞬間の長曾我部さんは、とても恐ろしい形相でしたね。鬼、と呼ばれているのでしたか。ええ、そのとおりだと思います。手を叩き、鬼を呼んだのは私ですから。
いつもならば殺してくれる猿飛さんや、毛利さんも死んでしまいました。大谷さんが生きてればいい、とだけ思っておりましたが、どうしてでしょうか。少し、悲しいのです。傷のない胸が痛むのです。
長曾我部さん、なぜ、そんなに痛いのをこらえるような顔をしているのですか。
「あんたが、」
「…………」
「あんたが、死んだら、また最初に戻るんだろ……?」
そうです。
答えてさしあげたいのに、声が出ない。頷けない。代わりに一回だけ、ゆっくりと瞬きをした。安心したような長曾我部さんの顔。
「悪ぃ、俺の我侭でアンタを殺す」
そんな風に謝らないでください。感謝しているのです。私は死なないとやり直せないのですもの。長曾我部さんのおかげで死ぬことができるんです。ありがとうございます。泣かないでください。
隣には大谷さんの屍。きっと、長曾我部さんのご慈悲なのでしょう。ありがとうございます。大谷さんには申し訳ありませんが、死ぬ直前まで大谷さんのお側にいることができて幸せです。
長曾我部さんの嗚咽を聞きながら、大谷さんの屍の隣で、私は死ぬのですね。死ぬのはとても怖い、大谷さんから離れることは辛い。だから、私は。それでも、私は。
また、うらぎるのでしょう。