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 西軍に身を置いているのは、大名だけではない。趣味の悪い賛美歌と共に舞うのは大友宗麟という宗教家だ。ザビー教信者であり、開教者であるザビーが去った今、教団の中では一番の権力者である。
 言っていることも、やっていることも、悪徳宗教家そのもの。信じ、敬うは、大谷ただ一人のジョセフィーヌ三世に目をつけるも、当初は目すら合わせられなかった。しかし、今日は珍しくジョセフィーヌ三世から大友の元へとやってきている。

 酷く名前の長い乗り物で優雅に踊る大友は、文字通り上からジョセフィーヌ三世に声をかけた。


「キャサリーン、よくぞきました! ザビーシンギングの時間ですよ!」

「否ジョセフィーヌです。第一歌は苦手な上、極度の人見知り。頭隠して鼻血隠さずとは私のことですよ」

「恥ずかしがることはありません。熱烈な愛をザビー様に向けるだけでいいのですから」

「残念ながら見知らぬ方に向ける愛など一片も持ち合わせていません。私の愛はひとかけら余す事なく大谷さんただ一人に注ぎ、私の人生は大谷さんただ一人を胸に閉会式を迎えるのです。前菜も前奏も開幕式もいりません。大谷さんに出会っていない頃の私は既に消え、大谷さんに出会った私が今を構成しているのです。ですので大友さんの申し出は『だが断る』でございます」

「っお前から来たというのに、入信しないとはどういうことですか! リトルデーモンなキャサリーンなんかケチョンケチョンにしてやります! 行きなさい宗茂!」


 幾度も断るジョセフィーヌ三世に、大友は地団駄を踏んだ。突然自分にふられた立花は、この程度なら慣れていると内心ぼやく。
 それでも、武器を持たず、戦うすべを一切持たない無抵抗の女に暴力を奮うのは、主の命令とはいえ立花の信条に反する。そこで、雷切の音に紛れそうな小さな声で、ジョセフィーヌ三世に耳打ちすることにした。



「我が主の申し出を断るとは、許しておけません!(大変申し訳ないのですが、弱めに小突きますのでお倒れください)」

「やられました」

「……倒しました(まだ触ってすらいないのに!)」

「ところでジョセフィーヌ三世も本名ではないのでキャサリンでもキャシーでもエミリーでもカロリーナでも好きに呼んでください。洗礼名についての抵抗はいたしません」


 地面に伏せたままジョセフィーヌ三世は淡々と喋る。
 くぐもった声は聞こえづらかったが、楽しそうに洗礼名の案をあげる様子からして、大友にはしかと聞こえていたようだ。立花も、嬉しげな主の姿に、胸をなでおろす。
 ゆっくりと身体を起こしたジョセフィーヌ三世は、立花の名前を呼ぼうとし、そして目線をそらした。ギャロップ? 立花? と首を傾げる。



「手前立花宗茂、と「ギャロップ立花ですよ!」うぐ、……我が主の仰る通りです」

「ではお言葉に甘えて立花さんと呼びます」

「お心遣い感謝致します(全然笑ったりしないから怖い子だと思ってたけどいい子だなー)」

「大谷さんが屋敷に帰ってきたようですので、お暇させていただきます。カステラご馳走様でした。大友さんも、素敵な乗り物は頂いていきますね。これで大谷さんと空中散歩が出来ます」

「え、僕の思い出号!? いけません! 返しなさい! キャサリーンッ!」

「……えぇっ!?(悪い子だったーっ)」




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