07
精がつくものでも食べたい。
大谷がふと呟いた、気まぐれ。ジョセフィーヌ三世は聞くやいなや、うなぎを猿飛に所望するも、そんな贅沢はできないと叱られた。働け、と助言を受けるも、ジョセフィーヌ三世は箸より重いものは持てないと首を横に振る。
先立つものがなければどうにもならない。長曾我部に道具を借り、試行錯誤しながら作ったのは贋金。猿飛から二度目のお叱りを受け、ジョセフィーヌ三世は次の策を練る。
そして何やら不格好な柵を作り上げ、適当な場所にそれを設置した。
数日が経ち、設置した柵の前でしゃべっているジョセフィーヌ三世を、石田が発見した。
「とったどー、でございます。初心者の罠に引っかかるとは見た目と同じで貴方も間抜けですね。悔しくて声も出ませんか。おやおや、そんなに睨んでも怖くありませんよ。さぁ大人しく夕餉になりなさい」
「おい、貴様。そこで何をしている」
「狸に言葉攻めですよ」
「狸だとぉおおお! 家康ぅああああ、けして許しはせんぞぉおおお!」
「イエアスさんは狸なんですか、存じ上げませんでした。まぁ、大谷さんに関係ない情報はすぐに忘れるとして、石田さん丁度いいところにいらっしゃいました。思った以上に狸が可愛くて殺すに殺せなかったんです。ひとおもいにどうぞ」
「可愛いだと? 戯れ言を」
刀を構える石田の視線の先には、身体を震わして石田を見上げる狸の姿。その目は心なしか潤んでおり、キュウと喉を鳴らすような声を搾り出す。
あざとい。とジョセフィーヌ三世は感想を漏らす横で、石田は膝をついた。
「ぐぁあああ! な、なんだ私の心をかき乱すこの愛らしさは。家康め、これが貴様の罠か!」
「やれ、三成。何の騒ぎよ」
「大谷さん、狸はお好きですか」
「肉は好きよ、ダイスキ」
「やりますね、イエアスさん。貴方の罠に引っかかりました。大谷さんの大好き発言に目から血が」
「日常ではないか。ほれ、面を上げよ。拭いてやるわ」
気まぐれで布を取り出した大谷に、ジョセフィーヌ三世が更なる出血をしたのは言うまでもない。