粟田口の短刀たちに囲まれて微笑むのは、歌仙が拾ってきてくれた一期一振さんだ。これで、粟田口は全員集まった。揃った兄弟の和やかな雰囲気に、胸をなで下ろす。やっと一つ、肩の荷が下りた気がする。
 ついでに拾ってきた鶴丸さんと鶯丸さんというレア4太刀に、これからも歌仙には頭が上がらないと苦笑した。

 気づけば随分と賑やかになったものだ。
 新入りへの大体の説明は古参にお願いしているし、私は審神者としての仕事を全うするだけ。
 まずはレベリングかな。
 装備枠多いし、いきなり強いところに連れていっても困らないだろう。槍がいなければ大丈夫だ。槍怖い。

 さて、刀装準備しないと。
 金玉職人の江雪さんに盾量産してもらおう。

 刀剣男士の今日の予定は、鍛錬場近くの大きな掲示板で確認できる。
 基本は私からの指示により配置しているが、人数が増えてきた分、目が行き届かないことが多い。
 なので、各自の名前が掘ってある木札を使い、戦以外の仕事は毎朝各々で調整してもらうようにしていた。

 江雪さんは畑仕事か。相方は鯰尾くん。
 ……あれ、さっき一期一振さんを囲む刀剣の中に鯰尾くん見たぞ。
 屋敷の裏手にある畑まで走れば、不機嫌そうな宗三さんと、いつもと同じ表情の江雪さん、小夜くんがいた。
 3人とも手が泥で汚れている。

 謝る前に江雪さんが口を開いた。


「一期一振が来たそうですね。折角兄弟が揃ったのですから、畑仕事をしている場合ではないのでしょう。私は気にしていませんから、そんな顔をしないでください」

「兄様は甘いんですよ。貴女、頭はそれなりにいいんですからこの程度のこと予想しなさい。僕らが来なければ、兄様ひとりで雑草抜きしてたんですからね」

「……」


 美脚で足蹴にしてくる傾国系刀剣男士の宗三さんはまだしも、他に目もくれず一心不乱に雑草抜きをしている復讐系刀剣男士の小夜くんと、一切怒りを見せない和睦系刀剣男士の江雪さんには罪悪感が芽生える。
 宗三さんの足を抑えながら、再び口を開いた。


「江雪さん、盾兵を作ってもらいたい。最低金盾3つ、いつもの配合で頼むよ。それと畑仕事は私がやろう。小夜くんと宗三さんは遠征準備をしていて」

「いいよ、雑草抜きのあとは水やりぐらいだもの。僕らがやるさ」

「見た目よりも随分と丈夫なんですよ、僕ら。貴女に仕事を押し付けるほどか弱くありません」

「刀装作りならば畑仕事の合間にできましょう」

「いいえ、それには及びません。鯰尾から聞きました。我が弟が失礼をしたようで。
僭越ながら畑仕事は我らが代わりましょうぞ」


 振り返ると、内番服の粟田口兄弟が揃っていた。
 おお、全員揃うと圧巻だな。あとで記念写真撮ろう。やっぱり今撮ろう。
 宗三さんから手を離し、写メを撮ると、尻を蹴られた。勿論犯人は宗三さんである。


「貴女……今そんな場面じゃないでしょうに」

「蹴る場面でもないだろ!」

「そうなんですか?」


 しれっとしやがって。
 まぁまぁと宗三さんと私の間に薬研が割り込む。前のめりに倒れた私の手を取って起こしてくれたのは、新入りの一期一振さんだ。


「あんまり大将をいじめてやんな」

「主、お怪我はありませんか?」

「ありがとう、大丈夫だよ。さてさて、改めて一期一振さん、私が一時的な君の主だ。頼りになる弟さん共々、よろしく頼むよ」

「ええ、自慢の弟らに遅れをとらぬよう精進いたします」

「うん。その為にも今日は1日出陣しまくるからね」


 目指せ、特付き。
 握手した手をそのまま、江雪さんにもついてくるよう促す。


「え、あの、そんないきなり」

「鯰尾くん、今度から持ち場離れるなら一声かけてくれよ。
よっし、鶴丸さん、鶯丸さんも一緒にレベル上げだから忙しくなるぞー。あ、薬研。蛍丸くんと岩融さん、それから御手杵さん呼んできて。一緒に出陣させるから」

「ああ、任せとけ。一兄、一緒に出陣できるのを待ってるぜ」


 薬研の言葉の後に続いて、粟田口の面々が応援の言葉を投げかける。
 不安そうな一期さんの顔に、笑みが戻ってきた。
 そして、全員が言い終えるころには、桜すら舞い始めていた。


「そうだね、頑張るよ」


 優雅な笑みを称える一期さんの背中を、笑顔で見つめる。
 どんなに疲労していようが中傷になるまでは問答無用でレベル上げの始まりですよ。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -