利休七仙とうたわれる細川忠興の愛刀(※性的な意味ではない)歌仙兼定。
優雅な笑みを称え、侘寂を好み、雅を愛す。さらには畑仕事や馬の世話は嫌がり、自らを文系と名乗るのだから、茶器か花器の付喪神なんじゃないかと疑ってしまう。だが、戦場で刀を振るい、敵の首を落とし、返り血で汚れる姿は、三十七人切った刀に宿る神様にふさわしい恐ろしさと美しさがあった。
「あまり近づかないでくれるかな。汚れるよ」
戦いを終えて、刀についた血を懐紙で拭いながら、歌仙はため息をついた。
ハイタッチは今回もしてくれないようだ。
審神者が直接戦場に赴くことは珍しいらしい。通信手段があるから遠くにいても指示は出来るし、なにより戦場は危険だ。リスクを冒してまで出陣するメリットといえば、こうやって目の前で刀剣男士の戦いぶりを見ることができるぐらい。
だが、私は相変わらず死なない。
初期刀である歌仙と、初めて鍛刀した薬研しか知らない秘密。
まるで造花だね。なんて皮肉をひとつ漏らしただけで、歌仙は私を主と呼ぶことを拒否しなかった。
敵の総大将を倒し、帰還している途中、歌仙の横を歩いてみた。
あまり運のよくない化け物審神者が率いる隊の戦力は不十分で、並の刀装と、第一部隊分しかいない刀剣男士。たまる疲労と減る資材。我が近侍さんは呆れてるんじゃなかろうか。見限られるのも時間の限界か。
勿論そんな雅じゃない質問、面と向かってできやしないけれど。
「僕の顔になにか付いてる?」
「いんや、泥は駄目で返り血を浴びるのは良いってどういうことかなーと」
「なんだ、そんなことか。
泥は雅じゃない、敵の返り血は雅。簡単だろう?」
「おっかない雅だな」
思わず笑えば、無粋な主だと笑い返された。